【一般社団法人リエゾン地域福祉研究所 代表理事 丸山法子】
この報酬改定に伴う決定事項だけでなく、有給休暇の消化や残業削減、採用活動など、あれこれたくさんのことを考えた揚げ句、最後の必殺フレーズが「うちは大丈夫」になっていませんか? 感覚は人それぞれ、瞬間ごとに目くるめく変わるものです。でも、まるで自分に言い聞かせるように、「うちは大丈夫」では困ります。
自分は大丈夫だと思うのは、「正常性バイアス」という心理です。人は、ささいなことで周りに踊らされないように平穏を保とうとする無意識が働くので、日常生活で問題に直面した時でも、それなりに対応できる力を備えています。しかし、なんらかの危機が迫っている時、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりする人間の特性が働き、逃げ遅れの原因になってしまうという心理学用語です。逃げ遅れだなんて、ちょっと危険ですよね。とはいえ、自分だけは大丈夫と思ってしまうのが人間です。
私が今、この原稿を書いている広島は、急激な季節変化もなく深刻な危機感は味わいにくい、地方都市にありがちな街です。人口推移も都心部に比べて激変する見通しもないため、「今すぐなんとかしなければ!」という、切羽詰まる感じや、もう「後がない」という緊張感が、ありがたいことに薄いようです。
さらに、平成の大合併で自治体がリニューアルしたため、今すぐ消滅しそうな市町村が名指しされず目立たなくなり、さらにゆったりさせてしまう要因になりました。しかし、働き手のいない過疎地域では人材確保が困難なために廃業・倒産する介護施設がじわじわ増加していて、誰も住まなくなった集落の地名だけが、白地図に載る未来を予感させます。知らない間に街は緩やかに消滅していくのですね。
目前に迫る特定処遇改善加算を含め、消費税率引き上げに向けた足並みがいよいよ整いました。報酬改定にあれほどアレルギー反応を見せた施設長が、「ようやく方針が固まってみんなに伝えたばかり」と胸をなで下ろしています。この間に、軽度の脳梗塞を患ってしまった施設長や幹部を複数人知っています。本当に心身共に困憊されているようでした。体だけは大事にしてくださいね。決して「自分だけは大丈夫」とは思わないように。
■スタッフが欲しいのは昇給だけではない
この改定のドラマをどう捉えてきたかで、明暗がハッキリしたことがありました。それは「まさにピンチ」と捉えた事業所と、チャンスにできた事業所の違いです。
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