【一般社団法人リエゾン地域福祉研究所 代表理事 丸山法子】
その忘年会は、毎年恒例のにぎやかさでした。豪華なホテル、天井にシャンデリア、金屏風と丸テーブル席。主催者あいさつと来賓の紹介、乾杯が終わると目の前に豪華なお料理が並びます。先代の息子さんである施設長は、「こういう機会に職員を全力でねぎらいたい」と言います。
30歳になったばかりの彼は、地元の銀行に就職した後、2017年から法人の経営に携わるようになりました。急逝した2代目理事長の後を継ぐには少し早いとのことで、現在、絶賛勉強中。エネルギーにあふれています。半世紀以上続く歴史の長い社会福祉法人では、創業者から理事長職までのほとんどが世襲です。そういえば、忘年会の来賓、この法人の管理職、関連医療施設まで、同じ苗字だらけじゃないですか。まさしく一族経営、安定していますね。
そんな中、気になる会話を耳にしました。誠実で素直であることから、将来を期待されているスタッフが、春から主任に抜てきされました。ところが「なぜ僕が主任なのか分からない。正直、昇進したくない」と言います。こちらも同じく30歳です。「介護の仕事は好きだし、これからも頑張りたい。しかし、頑張ってもそれ以上になれないなら、このままがいい」「それ以上って?」「思いっきり、行けるところまで行けるならいいんだけど」と口ごもります。
熱心な彼は、新しい介護技術に興味を持ち、現場で生かそうと提案力・発想力を発揮し、その実績もあります。しかし、組織が成長しても依然として世襲制であれば、将来にわたって大きな決定をする権限は得られそうにないことも知っています。また、40代や50代を主力とする組織だと、自分は何年経っても新人扱いです。
(残り1778字 / 全2506字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】