2018年度の診療報酬改定で入院医療に対する評価体系が再編されるのに伴って看護職員の採用をめぐる環境がどう変化するか、注目を集め始めている。【兼松昭夫】
7対1と10対1入院基本料を統合して新設する「急性期一般入院基本料」の7つの入院料のうち、点数が最も高い急性期一般入院料1(1591点)の基準に看護配置7対1が盛り込まれたのに対し、残り6つの入院料の看護配置基準は一律10対1とされた。
そこで、人件費を削減して利益率を高めようと、7対1入院基本料の届け出を4月以降、入院料2に切り替えて人員整理に踏み切る病院が出てくる可能性を指摘する見方もある。7対1入院基本料が06年度にできてから10年余り、看護職員の採用をめぐるパワーバランスはどう変わるのか。
■「有力病院に一極集中」
18年度の診療報酬改定では、入院医療への評価体系が目玉になった。「急性期医療」のステージでは、06年度の改定でできた7対1と10対1入院基本料を急性期一般入院基本料に統合し、この入院基本料の中に入院料1から入院料7まで7つの点数を新たにつくる。4月以降は、医療ニーズが高い患者をどれだけ受け入れているかの診療実績をこれらの入院料によって7段階で評価する形に切り替わる。
厚生労働省によると、今回の大幅な見直しは、少子・高齢化に伴う地域の医療ニーズの変化に現場が弾力的に対応できるようにするため。急性期病院にとってメルクマールのような意味合いを帯びている「7対1」を再編する内容とあって、同省が昨年末に打ち出した見直し案は大きな注目を集めた。
ポイントは、再編後の看護職員配置の基準値だ。
中央社会保険医療協議会(中医協)が7日にまとめた18年度の個別改定項目によると、入院料1が「7対1」、これら以外の入院料は一律「10対1」とされた。そこで、例えば7対1入院基本料の病院が急性期一般入院料2の基準をクリアして4月から届け出を切り替えれば、入院料1に次ぐ1561点を10対1の看護体制でも算定できることになる。これが看護職員の採用市場に大きく影響する可能性がある。
首都圏のある中核病院(一般病床400床台)の事務長は、「(看護職員の採用の環境は)もう、昔のような“売り手市場”ではない」と感じている。この地域には、7対1から入院料2への転換をいち早く検討し始めた病院があるという。これらは、看護職員の離職率が高い印象の病院や、人材を十分に集められず一部の病棟を休止している病院が中心。こうした病院では今後、看護職員の新規採用を控えていずれは10対1の看護配置に落ち着くのではないかとみている。
これに対して自病院では看護職員の採用にほとんど困らず、7対1の体制を維持してきた。夜勤を3人体制と手厚くしたり、チーム医療を推進して現場の負担を和らげたり、認定看護師の取得を支援したりと待遇改善を進めてきた成果だとみている。とはいえ、こうした対応を取れるだけの体力がある病院ばかりではない。「看護職員にとって夜勤は2人より3人体制の方がいいし、働きながらスキルアップできる方がいいに決まっている。看護職員は結局、有力な病院に集中すると思う」。
「CBニュースマネジメント」で「先が見えない時代の戦略的病院経営」を連載中の千葉大医学部附属病院の井上貴裕副病院長は、「(「重症度、医療・看護必要度」の見直しで)認知症、せん妄が評価対象に加わったため、入院料2にシフトする病院はそもそもほとんどないだろう。入院料1を死守しようとすれば、病院の取り組み次第でクリアできると予想される」と話している。
ランクダウンするケースがたとえあっても、「大幅な人員削減は無理」とも。医療の高度化・複雑化に対応するには手厚いマンパワーが不可欠なためだ。「(安易に人員を削減すると)重症患者や救急の受け入れ制限につながって急性期では生き残れなくなる」。
ただ、井上さんは今回の見直しが看護師の需給に影響を及ぼす可能性があるとも感じている。「仮に大幅な削減を考える病院が出てくれば、そこから中核病院に人材がシフトするかもしれないが、看護師が余ってきている中核病院もあるようだ。安易に中途採用はできなくなるかもしれない」。
■看護現場の負担増に懸念
今回の見直しが、医療ニーズに見合った人員配置をかえって妨げかねないと危惧する声もある。看護配置の基準が2段階なのに対し、医療ニーズが高い患者の受け入れ割合の基準は入院料ごとに段階的に設定されたためだ。
中医協がまとめた個別改定項目によると、「10対1相当」の入院料7に求められるのは、入院患者ごとの看護必要度の測定のみ。これに対して入院料4から入院料6までは、現在の10対1入院基本料と看護必要度加算1-3の組み合わせがベースで、入院患者の医療ニーズの高さは、従来の方法で測定するか、DPCデータを活用して測定するかを選択できる。DPCデータで測定する場合の基準値は、入院料6が12%、入院料5が17%、入院料4が22%とされた。
これに対して、入院料3と入院料2にはこれまでのベースがない。入院患者の看護必要度はDPCデータを使って測定する方法しか選べず、受け入れ割合の基準値は入院料2が24%、入院料3が23%と、入院料1の25%に次ぐ高さになった。このため、入院料1から入院料2に移行した病院が利益率向上を狙って人員整理に踏み切れば、入院料1に次ぐ医療ニーズに対応し切れるのか分からない。
中医協の菊池令子専門委員(日本看護協会副会長)は1月26日の総会で、今回の大幅な見直しに伴って看護現場の業務負担が増えることへの懸念を表明した。これを受け、中医協がまとめた答申書の附帯意見には、看護職員が適切に配置されているか、18年度改定後に調査する方向性が盛り込まれた。
菊池委員はCBニュースの取材に、「看護体制が院内の医療ニーズに本当に見合っているか、病院の管理者はきちっと把握してほしい」と話している。
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