医療関連のレセプト約129億件(2017年3月末現在)、介護レセプト約6.6億件―。国の複数のデータベースに蓄積されてきた膨大なデータの本格活用が20年度に始まる。国は、これらのデータを連結・分析できる「保健医療データプラットフォーム」をこの年に本格稼働させ、膨大なデータに官民を問わずアクセスできるようにする方針だ。それによって医療や介護サービスの標準化や質改善につなげるのが狙いで、現場側が変革を求められる可能性がある。医療ビッグデータは果たして何をもたらすのか―。厚生労働省の「データヘルス改革推進本部」で関係部局長を統括する鈴木康裕医務技監が“医療ビッグデータ時代”を語る。【松村秀士、兼松昭夫】
―昨年7月に厚労省が公表したデータヘルス改革推進計画では、健康・医療・介護のビッグデータの連携・活用について、「個人単位で連結・解析可能」にするとしている。
ナショナルデータベース(NDB)には医療レセプト、介護保険総合データベース(介護DB)には介護レセプトや要介護認定の膨大な量のデータが蓄積されている。それら以外にも、急性期入院医療のDPCや、外科系学会の「ナショナルクリニカルデータベース」(NCD)がある。これらはいずれも非常に網羅性が高く有用だ。
問題なのは、これらが現在は相互に全くつながっていないこと。非常に網羅性が高くて有用なデータベースが国内にたくさんあるのに、今はそれらを有効活用できていない。
これまでは、これらのデータベースにデータが自然に蓄積されてきたが、今後は特定の目的を持ってビッグデータをつくる。これまでばらばらだったデータベースをつなげるのはそのためで、これが「保健医療データプラットフォーム」だ。医療と介護レセプトのデータベースをつなげると、例えば脳卒中を発症した人にどのような治療をすれば要介護度がその後に高まるのを抑えられるのか、糸口を見つけられる可能性がある。
このプラットフォームを整備・運用するのに必要なことが3つある。1つ目は唯一無二のIDを国民一人一人に付与すること。これがないと複数のデータベースをつなげることができない。そのため政府は、患者さん一人一人を識別するための医療等IDの運用も、保健医療データプラットフォームと同じ20年度に本格スタートさせることにしている。
2つ目は万全なセキュリティー対策。とてもデリケートな健診や医療、介護の情報が万が一、漏えいして患者さんや利用者さんに迷惑を掛けてしまえば「健康・医療・介護のビッグデータは危ない」と受け止められ、国民の理解を得られない。
そして最も重要なのが「コスト意識」と「ビジネスモデル」の概念。私たち役人が忘れがちだが、ビジネスモデルとしてこの事業を成立させるには、データベース構築の初期費用や運用・更新の費用をできるだけ抑えて効果を生み出す必要があり、費用対効果が問われる。
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