「入院前から始める退院支援」は在院日数の短縮策などではない-。四国医療産業研究所の櫃本真聿(ひつもと・しんいち)所長は、地域づくりの中で退院支援をとらえている。
地域で元気高齢者を増やし、入院したとしても、その人の生活背景や望むことも含めて急性期病院に伝え、高齢者も生きがいを続けるために治療を受け、家に帰っていく。新たな退院支援の在り方が、これまでの「べったり医療・べったり介護」に反省を促している。【大戸豊】
■何のための入院なのか
櫃本さんは、以前勤めていた大学病院では「在院日数を短くしてほしい」との命を受け、退院支援などに取り組んでいたが、根本的な疑問が生じた。
入院中に認知症の症状が出たり、自分の力で立てなくなったりするなど、治療はしたけれど結局、家に帰れない患者があちこちにいた。何のための入院なのか。
医学生に入院の目的を尋ねると、「病気を治す」「命を救う」といった答えが返ってきた。これだけ高齢化が進んでも、若い医師の考え方がまったく変わっていない。
また、入院が患者の生活を「ぶった切って」いた。患者は入院すれば、日ごろから通院しているクリニックの情報や、どんな医療を希望しているのかも、病院には伝わらない。病院はほとんど情報がないまま、退院支援をスタートしている。そもそも無駄な労力がかかり、何より家に帰るための重要な情報が抜け落ちる。
日本の医療が急性期を核に動いているのは間違いない。本来、生活の視点で医療を提供するはずの在宅医療も、急性期からの「受け皿機能」ばかりが注目されている。櫃本さんは、在宅医療が生活を支える医療であるならば、急性期医療の側が、どうすれば患者が在宅でしっかり暮らせるのかを軸に、医療を組み立てていくべきで、発想の大きな転換が必要だと思った。そのためには、「入院前から始める退院支援」が必要になってくる。
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