全都道府県が地域医療構想をまとめ、各地の2025年時点の必要病床数が明らかになったが、急性期機能のニーズが大幅に減ると分かり、不足する回復期機能へとシフトすべきか頭を悩ませる病院経営者も少なくないはずだ。そんな悩める経営者のために開発されたツールが、病院の“急性期らしさ”を数値化する「急性期指標」だ。正しく使えば自院の立ち位置を見極めることができるが、その一方で、やってはならない「禁忌」の用法もある。指標を開発した奈良県立医科大の今村知明教授と野田龍也講師に使い方を聞いた。【佐藤貴彦】
■将来の病床は急性期が過剰、回復期が不足に
地域医療構想の必要病床数は、25年時点の患者数をカバーできるだけの病床数を高度急性期・急性期・回復期・慢性期の4つの医療機能ごとに推計したものだ。25年までの少子・高齢化の進み方は地域差が激しいため、構想区域(ほぼ二次医療圏)ごとに都道府県が算出し、地域医療構想に盛り込んだ。
一方、医療機能ごとの病床数の現状は、都道府県が「病床機能報告」で把握している。14年度にスタートしたこの制度では、医療機関が病棟単位で医療機能を選び、配置した職員数などのデータと併せて毎年度報告している。
厚生労働省が、15年度の報告結果と必要病床数とを構想区域ごとに比べたところ、341区域のうち328区域(96.2%)で急性期機能の病床が過剰になり、336区域(98.5%)で回復期機能の病床が不足することが分かった。323区域(94.7%)では、急性期機能の病床が過剰になり、回復期機能の病床が不足する見通しだ=図1=。
■患者が分散、共倒れも…
急性期機能の病床が過剰な状態で25年に突入した地域では、入院患者が分散するだろう。地域の急性期病院が軒並み病床稼働率の低迷に苦しみ、共倒れする、なんて恐ろしい状況に陥る可能性もある。
それを回避するためには、病棟単位で回復期機能への転換を図る病院経営者の決断が必要だ。ただ、判断を誤れば病院の生き残りにも関わる。都道府県は、病院同士で話し合うための場として「地域医療構想調整会議」(調整会議)を用意しているが、慎重さが求められるだけに堂々巡りを繰り返すかもしれない。
25年まで残された時間はそう長くない。「どこに行くのが自分にとって良いことなのか。そして、地域にとって良いことか考える局面だ」と今村氏は呼び掛ける。
■機能報告の結果で病院の機能を「見える化」
自院の将来を考える上で、最も重要なのは地域での立ち位置を正しく理解することだろう。その参考になるのが病床機能報告の結果で、都道府県のホームページで公表されているため簡単に入手できるし、近隣の病院の病棟ごとの職員数や患者数、手術件数、病院に配置した設備など多様なデータを把握できる。
ただ、データの項目数は400を超えていて、膨大な中から何を見ればいいのかが分かりづらい面もある。「病床機能報告の結果を使って、各病院の機能を『見える化』できないだろうか」-。そう考え、試行錯誤の末に生み出したのが急性期指標だと今村氏は明かす。
この指標は15年度の厚生労働科学研究の中で開発されており、病院ごとのスコアは、厚労省が全都道府県に伝達済みだ。調整会議でスコアを示した都道府県も出始めた。今後、多くの病院関係者が自院のスコアを知ることになると考えられる。
■実感に合ったスコア出すため試行錯誤
今村氏と野田氏が指標を開発する際に最も重視したのは、地域の病院関係者の実感に合ったスコアを出すことだった。そのため、計算方法には「数学的な正しさに目をつぶった」(野田氏)手法も織り交ぜている。
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