東京都八王子市では、65歳以上の市民に持病や服用薬、かかりつけ医療機関などの情報を一枚の紙にまとめてもらい、緊急時に救急隊がそれを活用することで、スムーズな搬送につなげる取り組みが進んでいる。開始から5年を迎え、高齢者の市内の医療機関への搬送率(地域での完結率)は上昇。関係者同士の相互理解も深まり、八王子の“救急の輪”は、慢性期病院などにも広がりを見せている。【敦賀陽平】
この事業を担うのが八王子市高齢者救急医療体制広域連絡会、通称「八高連」だ。八高連は2011年5月、病院、介護施設、医師会、消防署、自治体の関係者らが集い、市の救急業務連絡協議会の下部組織として発足。現在、会員の数は20団体、1753事業所に上る。
発足の背景には、救急隊が搬送先を見つけるのが困難な高齢者の増加があった。高齢の患者は、複数の病気を抱えるケースが多く、入院が長期化する傾向にある上、退院時に介護や福祉の関係者との調整が必要な場合もある。地域の高齢化に伴い、搬送先が決まるまでの時間が長くなり、八王子市外の病院に搬送する事例も増えていた。
東京には、救急隊が5カ所以上の医療機関に受け入れを断られたか、搬送先を探し始めてから20分以上が経過した場合、各医療圏の地域救急医療センターに調整を依頼する決まりがある(東京ルール)。八王子消防署によると、09年8月末から翌年12月末までの間、市内で東京ルールが適用された287件の救急搬送のうち、65歳以上の高齢者の事案は4割近くを占めた。
■情報シート導入で救急隊の活動時間が短縮
八高連では12年春から、高齢者向けの「救急医療情報シート」の運用をスタート。救急隊や受け入れ先の病院が知りたい情報をあらかじめ一枚の紙にまとめておき、救急隊がそれを活用することで、搬送先を見つけやすくする取り組みだ。
シートには、▽住所や氏名といった基本情報▽治療中の病名▽既往歴▽服用薬▽かかりつけの病院―などの記入欄のほか、「できるだけ救命、延命をしてほしい」「なるべく自然な状態で見守ってほしい」といったリビング・ウィルに関するチェック項目も設けられた。記入済みのシートは救急隊が見つけやすいよう、冷蔵庫などの目立つ場所に張ってもらった。
運用開始に先立ち、八高連では、高齢世帯などに約30万枚のシートを配布。シートの存在を広く知ってもらうため、市民向けの説明会の開催やポスターの掲示などを、ほとんど手弁当で行ったという。
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