介護において、生産性とクオリティーの向上が、唯一給料を上げるための方法-。訪問・通所介護などを全国展開するソラストの石川泰彦社長は、こう語る。また、介護事業者には、業務にかかわるリスクを念頭に置きつつ、体制づくりを進めることが求められていると指摘する。ただ、現在の介護報酬体系が、大変な思いをしている現場の労力や事業リスクに見合ったものなのか、再考する必要があるという。【大戸豊】
石川社長は「これからのサービスは、投入する人数ではなく、生産性とクオリティーの向上が求められる」と話す。では、生産性とは何か。「一言でいえば、ITやICTを活用すること」という。
PCやタブレットを使って日々の記録をデータベースに入力すれば、紙ベースの記録で生じる書き間違いや転記ミスが大幅に減る。そして何より、日々のデータをデジタルで蓄積しAI(人工知能)で分析していけば、プロセスの改善や経営判断に大いに役立つ。
例えば、採用データと人事評価をつなぎ合わせることで、適正配置に生かすことができるかもしれない。デイサービスに配属された新人Aさんの人事評価と採用データを確認し、果たしてAさんはこの業務に向いているのか、あるいは他の業務の方に適性があるのか。このほかにも、デイサービスに配属すれば伸びるかもしれない人材のタイプなども、データから浮かび上がってくるかもしれない。
データを蓄積し継続的に解析することで、今まで見えていなかったことも、見えてくる可能性もある。
石川社長はまた、サービス業における生産性の意味を考える必要があると言う。そして、生産性を落とすのはミスや間違いだと明言する。
仕事の速い人でも、お客さんを怒らせて1時間クレームを受け、その後処理に追われては元も子もない。また、工場で不良品をつくり、リワークに回せば、無駄な時間やコストが発生する。
石川社長は、介護サービスで、一人ひとりの利用者にしっかり対応することは、仕事が遅くなるように見えて、実はミスを減らし、生産性を高めることができると言う。そして、クオリティーを高めるためのポイントになるというのだ。
「多くの人は、生産性(スピード)を上げるというと、クオリティーが落ちるという。しかし、生産性(スピード)を落としているのはミスであり、ミスにつながる要因をいかに取り除くかが重要。生産性(スピード)を高めることと、クオリティーの向上とは矛盾せず、同じ方向を向いている」
社内報などで、石川社長は「生産性・クオリティー」と表現することもある。2つを一体のものと考えているからだ。そして、これらを上げることが、給料を上げるための唯一の方法だという。
生産性を上げるもう一つの方法が、チームワークだ。3人のチームで1人が体調不良で休んでも、残り2人でカバーできれば4人目を雇う必要がない。介護施設でも特に忙しいフロアに、比較的余裕のあるフロアのスタッフが、応援に駆け付けることもあるだろう。
石川社長は、チームワークにはまず、“お互いさま”の文化が必要だと言う。そして、リーダーの存在が欠かせないと言う。
以前、医療現場のリーダーを見て、彼らこそ企業で行うリーダー研修、マネジャー研修を受講すべきだと思っていた。現在、リーダー職には、自社のキャリアセンターで、コーチングの講習を受講してもらっている。
「どうしたらスタッフは話を聞いてくれるのか、チームでお互いに助け合うのか、といったことは、リーダーにとって切実な問題。従って問題意識が高いので、コーチングの技術を吸収するのがとても速い」
石川社長は、リーダーやマネジャーを目指す社員を応援していきたいと言い、「彼ら、彼女らがリードして現場の生産性やクオリティーを上げていけば、給料も上げられる。そういったサイクルをつくりたい」と話す。
■介護報酬を事業リスクに見合ったものにすべき
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