「救急車の適正利用を」との呼び掛けにもかかわらず、救急搬送件数の増加傾向に歯止めがかからない。特に都市部を中心にうなぎ上りの状況で、東京消防庁が22日に公表した昨年1年間の出動件数は、救急業務を開始した1936年以来、過去最多となった。救急需要の増大は、カルテなどの診療情報がなく、「ゼロ」から治療を始めざるを得ない救急医療機関の負担をさらに重くする。「せめて急患の診療情報があれば…」。救急医らの切実な願いがかなう日は来るのだろうか。【新井哉】
救急車を呼んだのに、自宅の前に消防車が来た―。多くの救急資器材を必要とする高度な救命処置を行ったり、救命のために一刻を争ったりする場合、消防車(Pumper)と救急車(Ambulance)が出動し、連携して救急活動を行うのが「PA連携」だが、肝心の救急車が他の現場に出動中などの事情で、直近の消防署から出動した消防車の方が先に着くケースが見受けられる。救急需要の増大に伴い、救急隊が現場に到着するまでの所要時間が延びる傾向となっていることから、東京消防庁は「改善が必要な状況」と危機感を募らせている。
「三次(救命救急センター)はもう患者が入っているから無理。二次だったら取れる」。救命救急センターを持つ病院の医師は、東京消防庁からの受け入れ要請に、こう返答した。この医師は「この地域では、うちが最後の砦。本来は三次で対応する症例も二次で受けざるを得ない」と打ち明ける。
救急医療現場の負担軽減を図る方法はあるのか。地域の医療機関が協力・連携して救急患者を受け入れる「東京ルール」の策定に携わった日本医科大大学院の横田裕行教授(救急医学分野)は「救急搬送された患者の情報がゼロから治療を始める状況を改善しない限り、現場の負担は減らない」と指摘する。
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