「災害時、看護師に何ができるのか」-。阪神大震災は病院での看護しか経験がなかった多くの看護師に、その課題を突き付けた。避難所や仮設住宅などで可能な医療行為は限定される。でも、だからこそ、療養環境を整えることにたけている看護師が介入する余地がある。そう考えた看護師らは手探りで被災者のケアに乗り出した。あの日からこれまで、災害看護の移り変わりを追うと、“暮らし”というキーワードが見えてきた。【坂本朝子】
棚は倒れ、医薬品や衛生材料が床に散らばり、聴診器すらない状況だった。そんな中、既に亡くなった乳児を連れて来た家族のことが、松本さんは今でも忘れられないという。「亡くなっています」とは言えず、家族の前で蘇生処置を施し、あきらめられない家族の気持ちに寄り添うしかなかった。
こうしたジレンマは、避難所の巡回診療に出てからも感じたという。「ずっと病院にいたから、どう手を出したらよいか分からなかった」と松本さんは当時の心情を明かす。そして、「皆、寒さで動かなかったので、一緒に体操をするとか、体を温めるとか、今思えばもっと看護の力を発揮できることがあった」と悔やむ。
しかし、同時に、「医療器具も何もない中で、どうやったら看護を届けられるかを考えるきっかけにもなった」と松本さんは語る。
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