精神疾患による入院期間が1年以上に及ぶ「長期入院精神障害者」の地域移行が、精神保健福祉法の改正などで進められている。地域移行が進めば、結果として精神病床が減るとされるが、日本精神科病院協会(日精協)の山崎學会長は「慌てて病床削減しない方がいい」と警鐘を鳴らす。山崎氏は、今後の高齢化の進展に伴って認知症患者が増える地域では、認知症の行動・心理症状(BPSD)に対応する役割が精神科病院に求められると指摘。まずは、病院が根差す地域の人口推計から、今後の医療ニーズを把握して方向性を判断すべきだと話す。【佐藤貴彦】
精神障害者の地域移行をめぐっては、国が2004年9月に「精神保健医療福祉の改革ビジョン」を策定した。この中で、長期入院精神障害者の退院促進や、新規に入院した精神障害者の早期退院の促進に関する10年間の数値目標を設定。さらに、それが達成されれば結果として、精神障害者に入院を提供するのに必要な精神病床数が、15年には約7万床減るといった試算も示した。
ただ、地域移行を促す施策を講じたにもかかわらず、長期入院精神障害者の退院が進まないなどとして、国は精神保健福祉法を改正。同法に基づく指針(今年4月適用)で、精神障害者が入院から1年未満で退院できる体制を確保することを、医療機関などが目指すべき方向性として位置付けた。また、既に1年以上入院している精神障害者に対しても、その症状が「重度かつ慢性」でなければ、退院促進に向けた取り組みを、多職種が連携して推し進めることとした。この指針でも、精神病床の数は、地域移行の結果として「減少する」としている。
こうした地域移行を推進する流れに対し、山崎氏は一石を投じる。「改革ビジョンは、基本的に統合失調症などの疾患を想定して作られました。しかし、これから10-15年後を見据えた政策を考えるならば、統合失調症だけでなく、認知症も考慮したプランを作るべきではないでしょうか」。
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