亡くなった患者を見送る際、多くの病院では人目に付かないよう、裏口からそっと送り出すのではないだろうか。ほかの患者への配慮からではあるが、そうして見送られることに戸惑いを覚え、大きなショックを受ける家族もいる。今、そんな家族の悲しみを少しでも和らげようと、「お見送り」のあり方を見直す病院がひそかに増えている。取材をすると、医療者も患者の死で抱く喪失感や悲嘆に思い悩む様子が見えてきた。【坂本朝子】
昨年の暮れ、そんな相談が、四国こどもとおとなの医療センター(香川県善通寺市)でホスピタルアートディレクターとして働く森合音さんの元に寄せられた。患者を送り出す際に、霊安室からの通路で、家族から「寂しい気持ちがする」と言われた看護部からのものだった。
同センターは昨年5月、国立善通寺病院と国立香川小児病院を統合し、開院したばかりの新しい病院。そのため、まだ真新しい、きれいな建物だ。しかし、問題となった霊安室がある地下の通路は少し暗く、無機質な印象を与えていた。
森さんは、全国でも珍しい嘱託職員として病院に入り込んで、院内のさまざまな課題をアートで解決するアートディレクター。今回の相談に対して、単純に照明を明るくしたり、アート作品を飾ったりすることもできた。しかし、森さんが選んだ方法は、そうした表面的な改善ではなかった。それは、患者家族だけではなく、医療者をも癒やす試みだった。
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