「治療法がない」。そう言った医者は、患者のためを思い、副作用や苦痛を考えて治療しない方がよいと判断した。そう言われた患者は、見捨てられたと思い絶望し、医者に強い恨みを抱いた-。いわゆる“がん難民”をテーマに、こうした医者と患者のすれ違いを双方の視点から描いた「悪医」(朝日新聞出版)が、医療に対する国民の興味を喚起する作品に贈られる「日本医療小説大賞」の第3回受賞作に選ばれた。「治療法がないと告げる医者は、悪い医者か?」。そう社会に問い掛けた著者で、医師でもある久坂部羊氏に話を聞いた。【聞き手・坂本朝子】
6年前に、編集者から「次は“がん難民”の話を書いてください」と言われて、それがずっと頭にあって、資料を集めたりしていました。そんなある日、「治療法がないということはわたしにとって死ねと言われたも同然なのです」という、もう治療法がないと言われた患者の記事を見つけました。
医者が「治療法はありません」と言うのは、副作用で寿命が縮まったり、苦しい思いをしたりするだけなので、QOLを考えたら、がんという病気はある時点を越えてしまうと治療しない方がいいですよという意味で、患者さんのためを思って言うわけです。
しかし、言われた側の患者さんの気持ちというのは、やはり医者は分からないんですよね。その記事を読んだ時に、「こういうことなのか」と、わたし自身ショックを受けました。そこを書き出しにして、治療法がなくなった患者さんの苦しみを書きたいと思ったのです。それがスタートでした。
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