一晩中、救急患者に付き合わされ、翌日は朝から通常勤務しなければならない―。昨年1月、埼玉県久喜市の男性が救急搬送時に病院から36回断わられて死亡した事案などを受け、県は、あえて医師や医系大学の教職員をメンバーに入れない「医療会議」を設置し、“県民の声”を医療政策に反映させる取り組みを始めた。初会合が開かれた20日、川越救急クリニックの上原淳院長が講師として登壇。救急部が他の医療従事者から迷惑がられる理由や、二次救急医療機関が十分機能していない県内の実態について自身の経験を交えて分かりやすく伝えた。【新井哉】
「本来、三次救急を担うべき大学病院に一次患者も二次患者も行ってしまう」。上原院長の訴えに耳を傾けるのは、大学生やフリーアナウンサー、ビール会社の元社長、PTA関係者、医療分野で活動してきた市民団体の代表者らだ。こうした会議の“常連メンバー”である医師や看護師、医系大学の教職員の姿はなかった。
なぜ、こうした会議を埼玉県が開く必要があったのか。会議の冒頭、県の担当者は、救急や周産期の急性期医療を担う人材が不足していることや、今後は在宅医療などを担う医師の必要性が高まることを挙げ、「急性期対応と超高齢社会対応の二重の課題を同時に解決する必要がある」と訴えた。こうした「難しい問題」(県の担当者)を解決するためには、医療サービスを受ける県民の理解が欠かせないためだ。
県の担当者は、2025年には県内の75歳以上の高齢者は10年の2倍の117万人に達する見通しを挙げ、「日本の中で最も高齢化スピードが速く、規模も大きい」と説明。“埼玉都民”と呼ばれ、勤務先の東京都内の医療機関を受診していた人たちが退職した場合、県内の医療機関を受診することになるため、「県内の医療需給がひっ迫する恐れがある」と危機感をあらわにした。
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