神奈川県海老名市でこのほど開催された日本医療マネジメント学会第13回神奈川支部学術集会では、チーム医療の課題と対策を話し合うパネルディスカッションが行われた。パネラーからは、医療安全のトレーニングも最初は関心を持ってもらえるが、安全意識を持続させるのが課題といった意見が出たほか、チームが持っている知識や技術を、メンバー以外にも広げていくには「伝えるスキルも重要」との指摘もあった。【大戸豊】
黛氏は、医療における安全の確保には、チームとして取り組むことが重要であり、中でもコミュニケーションがカギになると説明した。そして、コミュニケーションの訓練は、より実践に近いかたちで身に付けることが重要ではないかという。
同院では、多職種による体験型トレーニングを行っている。診療技術向上に向けたさまざまな訓練を行う院内の「スキルトレーニング室」では、模擬病室を使った危険予知訓練を行っている。
この訓練では、多職種で構成されたチームが病室に入り、転倒や感染症などが患者に危険を及ぼすことはないかを、各専門職がチェックする。
職種によって観察するポイントは異なることから、職種を超えてどのようにコミュニケーションを取ったり、情報共有をすれば危険を防げるのかを学ぶという。
研修が終了すると、「看護師さんの危険予知はすごい」と他の職種が驚いたり、研修医が「車いすにロックが掛かっているかどうか今後確認します」などと気付いたことを話し合っている。
黛氏は最初の演習ではスタッフにかなりの刺激を与えられるとしながら、「問題はどうやって安全の意識を持続してもらうか」と指摘したほか、インストラクターの確保も課題とした。
■体重が落ちた患者の状態をイメージしてもらうには
聖マリアンナ医科大横浜市西部病院のNST(栄養サポートチーム)専従看護師の森みさ子氏は、自分たちの知識をどのように他の職員に伝えていくべきかを中心に、取り組みを紹介した。
同院では2002年からNSTをスタートし、10年度の診療報酬で加算が新設されてからは、専従チームを置き、年間延べ千人に介入している。
森氏は、チーム医療では後任を育てていくことが重要になると指摘。同院でも、看護師が異動したり、キャリアプランが変わってしまうなど、NSTの後任が続かない時期があった。そこで、リンクナース会を通じて、栄養療法を伝えていくことで、安定的に後任が確保できるようになったという。
さらに病棟の看護師が「栄養はNSTに任せればいい」などと無関心にならないように、病棟看護師にカンファレンスを設定してもらい、NSTも参加しながら栄養療法に関心を持ってもらうようにしている。
森氏は、NSTが持つ知識をどのように他の職員に伝えるかも重要という。
長い間絶食が続き、低栄養状態の患者に急に栄養を与えると、容体が急に悪くなってしまう「リフィーディング症候群」はNSTにとっては常識でも、栄養にかかわりのないスタッフは知らないことも多い。
食事ができるようになった患者が、食べるたびに吐いてしまうという報告を受け、その患者のデータを見てみると、リンやカリウムが急激に低下するリフィーディング症候群の症状が見られた。森氏は知識を伝える時間はなかなか確保しにくいが、月に1回でも他のチームのカンファレンスや回診にお互いに参加し合うことが大切とした。
森氏はまた、チーム医療を進める上で看護記録をチェックすることがとても重要になるといい、実際数値の変化の意味を理解していなければ、患者の変化を見過ごすことにもつながると指摘する。
以前、1週間で体重が4.4キロ落ちていた患者がいても、病棟では患者の体重を継続して測っていないことがあったため、身近な例で状態を理解してもらおうとした。
例えば、体重1キロを増やすのに7200キロカロリーが必要だが、電解質輸液(500ミリリットル)を1日3本提供しても、わずか258キロカロリー。「それは小さめのカップアイス1個と同じなんです」と説明しながら、患者にカロリーが不足し、消耗しているのかを想像してもらおうとしている。
森氏は「伝えるスキルも持たなければ、質の高い医療はできないのではないか」と述べ、現在も体重を計測してもらうように、機会があるごとに看護師に伝えているという。
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