急性期病院の生き残り、カギは在宅医療?!
14年度診療報酬改定を読み解く
「医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等」が重点課題に位置付けられた2014年度診療報酬改定。在宅医療の分野で、緊急往診などの実績が豊富な医療機関に点数が手厚く配分された一方、一般病棟7対1入院基本料の要件厳格化や「地域包括ケア病棟入院料」「地域包括ケア入院医療管理料」の新設など、特に急性期機能を担ってきた病院にとっては、大きな方向転換を要求される内容も目立った。これから2回にわたり、病院・診療所が14年度から在宅医療を始めるメリットや、在宅医療部門の立ち上げ後、規模を拡大させていく方法を取り上げる。
【関連記事】
第2回「在宅医療の拡大、成功のキーワードは」はこちら
■7対1の要件厳格化、在院日数のハードル高く
14年度の診療報酬改定の目玉の1つは、一般病棟7対1入院基本料(14年度から1591点)を届け出るための要件の厳格化だ。同入院基本料の要件については、入院患者に占める重症者の割合(15%以上)は据え置いた上で、重症者かどうか判定する基準の一部を、急性期の患者像に合わせて変更。病院内に「救命救急入院料」を算定する治療室があれば重症者の割合を達成したとみなす現在の扱いも改める。
これらの見直しだけで、現在7対1を算定している病院の4割以上が基準を満たせなくなると厚生労働省は試算。しかし、要件を厳しくする変更はほかにもある。
まず、平均在院日数をカウントする対象から、「内視鏡的結腸ポリープ・粘膜切除術」などの21種類の手術・検査による短期入院(5日以内)の患者を除外。さらに、「筋ジストロフィー」など12の状態に該当する患者に入院期間が90日を超えても一般病棟入院基本料を算定できる「特定除外制度」を廃止し、▽出来高で算定するが、平均在院日数のカウントに含める▽医療区分とADL区分を用いた包括評価の報酬体系とするが、カウントに含めない-のいずれかを、病棟ごとに病院が選ぶ仕組みにして、一般病棟7対1入院基本料の要件の1つ「平均在院日数が18日以内」を満たす難易度を引き上げる。
さらに、病棟を出る患者の一定割合が自宅に帰ったり、在宅復帰機能を持つ病棟などに転棟したりしていることも要件に加える。原則14年9月末まで猶予期間が設けられるが、それまでに体制を整えて7対1入院基本料を算定し続けるか、一般病棟10対1入院基本料(1332点)やそれ以外の入院基本料に切り替えるか、病院経営者は大きな決断を迫られそうだ。
■7対1などからの移行想定し、亜急性期の評価手厚く
社会保障・税一体改革の中で政府が掲げる25年の地域包括ケアシステムの構築 =図1、クリックで拡大= に向け、2回目の見直しとなる14年度の改定では、急性期を乗り越えた患者の受け皿を整備するため、地域包括ケア病棟入院料(病棟単位)と地域包括ケア入院医療管理料(病室単位)も新設。どちらも2区分で、入院料・管理料1は2558点、入院料・管理料2は2058点。診療報酬の包括範囲は、病院の亜急性期機能を現在評価している「亜急性期入院医療管理料」(9月末で廃止)に合わせ、点数はそれ以上に手厚くする。看護職員や看護補助者の充実した配置を評価する加算も設ける。厚労省では、7対1入院基本料などからの移行を想定している。
新たな入院料・管理料で求める人員配置の基準は、看護職員13対1以上のほか、専従の理学療法士などのリハビリスタッフの配置など。一般病棟用の重症度の評価票で「A得点」1点以上の重症者が、入院患者のうち1割以上を占めることや、▽在宅療養支援病院(在支病)の届け出▽新設する「在宅療養後方支援病院」として年3件以上の在宅患者の受け入れ実績▽二次救急病院か救急告示病院の指定-のうちどれかに当てはまることなども求める。点数が高い同入院料・管理料1を届け出るには、これらのほかに入院患者の在宅復帰率70%以上などのクリアも必要になる。
■急性期病院は在宅医療参入を視野に
こうした報酬改定を、医療機関はどう受け止めるべきなのか。「急性期を担う病院も、在宅医療を視野に入れなければならなくなったというのが、この報酬改定の印象です」。そう話すのは、医療経営コンサルタント会社「メディヴァ」(東京都世田谷区)の大石佳能子代表取締役社長だ。
まず、7対1入院基本料の届け出を維持するには、平均在院日数を18日以内に抑え続ける必要がある。患者を早く退院可能な状態に戻すため、院内の医療提供体制をより手厚くしなければならないのは自明の理だ。
しかし、急性期機能を充実させただけでは、平均在院日数を短縮できるとは限らない。退院後の患者を安心して任せることのできる病院や施設、在宅医などの連携先がなければ、退院までに時間がかかり、結果として在院日数が延びてしまう可能性もあるからだ。
そこで大石氏は、病院内に在宅部門を設置するよう勧める。質の高い在宅医療を自病院で提供できれば、患者をスムーズに退院させることができる上、退院後に在宅に戻る患者割合の増加にもつながる。
これに対し、7対1から10対1などに移行する病院は、在宅医療を始めることで、入院分の収益減を補てんできる。病棟に配置すべき看護職員の基準が緩くなるため、新たに看護職員を雇用しなくても、人員の振り分けで在宅部門の立ち上げが可能だ。
大石氏は、「在宅医療では、キュアだけでなく、ケアの部分も必要で、看護スタッフの出番がたくさんあります。それに看護スタッフの多くは、退院した患者さんがどう生活されているのかに興味を持っています。『いざという時には任せて』という医師の後ろ盾を受けて在宅医療を始めた結果、強いやりがいを感じる人をたくさん見てきました」と話す。
急性期病院が在宅部門を立ち上げて円滑に運営するためには、そのためのツールを新たに整備する必要もある。ツールとは、医師や看護職員の訪問スケジュールを管理したり、院内外で情報を共有したりするためのシステムなどだ。こうした設備をそろえて活用すれば、在宅医療に取り組む医師らの負担を軽くできるが、そのための初期投資に尻込みする医療機関も少なくない。しかし大石氏は、「先を見据えた視点が必要です」と指摘する。
改定で注目すべきポイントには、地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料の新設もある。要件に在支病の届け出や高い在宅復帰率などが入ったことから、「亜急性期機能を担っていく病院も、在支病として在宅医療に力を入れていくかどうか、検討しなければならないでしょう」と大石氏は指摘。「7対1や10対1の病院が在宅医療を視野に入れるかどうかで、今後の生き残りが懸かってくると言っても過言ではありません」とし、特に急性期病院に決断を促す =在支病の要件については表1、クリックで拡大= 。
■有床診の入院や主治医機能の評価にも「在宅療養支援」の文字
在宅医療を重視しなければならないのは、病院だけではない。14年度の改定では、有床診療所の入院医療の評価の在り方も見直され、有床診療所入院基本料が従来の3区分から6区分に変更される。在宅療養支援診療所(在支診)の届け出と訪問診療の実施といった機能も評価の対象に加えられる =在支診の要件については表2、クリックで拡大= 。
また、診療所や中小病院の主治医機能を評価する「地域包括診療料」(月1回1503点)も創設され、この中で、複数の慢性疾患を持つ患者の外来診療や薬剤・検査の管理、訪問診療などが、包括して評価される。同診療料を届け出るための要件にも、在支病・在支診であることが含まれている。在宅医療の重要性が増すのは、急性期の病院だけではなさそうだ。
■実績の要件厳格化、カギは他医療機関との連携
入院や外来に関する診療報酬が大きく変わる一方で、在宅医療関連では、実績をこれまで以上に重視。12年度の改定では、在支病・在支診のうち、在宅医療を担当する常勤医師3人以上の配置や過去1年間の緊急往診・看取りの実績の要件を満たす医療機関を、「機能強化型」に位置付け、往診料の加算や、定期的な訪問診療を評価する管理料などを手厚くした経緯がある。
14年度からは、機能強化型の実績要件を引き上げ、過去1年間の緊急往診10件以上、看取り4件以上を求める上、複数の診療所や病院が連携して機能強化型の要件を満たす場合には、それぞれの医療機関がクリアしなければならない実績の基準(過去1年間に緊急往診4件以上、看取り2件以上)も設ける =新しい機能強化型の要件は表3、クリックで拡大= 。また、在宅医療を担当する常勤医師は2人以下でも、看取りなどで実績を多く持つ在支病・在支診には、加算を新設して手厚く評価。このほか、同一建物に住む患者数人を一日で訪問診療する場合の評価は大幅に引き下げる。施設訪問を主体とした医療機関には影響が大きい =グラフ1、クリックで拡大= 。
こうした改定の内容を見ても、在宅医療に従事する医療機関の数は14年度以降も増加すると大石氏は予想。その結果、医療が供給過多に陥れば、患者確保は難しくなりそうだが、大石氏は「在支診や在支病の数は、まだ限られています。ほとんどの地域では、競争が厳しくなるというより、連携できる相手が増えると考えるべきでしょう。患者側の需要を見るに、仕組みさえしっかりとつくれば、緊急の往診や看取りの実績も十分に上げられます」と分析する =グラフ2、クリックで拡大= 。
連携先を確保して機能強化型の在支診・在支病として届け出れば、緊急時の往診の加算などの点数が大幅にアップする =グラフ3、クリックで拡大= 。14年度の改定を機に在宅医療を始める医療機関にとっては、経験豊富な在宅医療機関と連携することで、ノウハウの吸収も期待できそうだ =改定後の機能強化型在支診などの点数表は表4、クリックで拡大= 。
今後も、さまざまな医療機関にとって、増収のポイントとなる在宅医療。次回の特集記事では、在宅部門を立ち上げ後、拡大、成長する際の課題と、ICT(情報通信技術)などを用いてそれを打破する方法について取り上げる。
診療報酬改定の影響や、在宅医療拡大のポイントについては、富士通が主催する 「現役在宅医と医療コンサルが語る 診療報酬改定から見る、経営戦略セミナー」(詳細はここをクリック )で大石氏が詳しく解説する。
医療介護経営CBnewsマネジメント
【関連記事】