大分市の「明野中央病院」(75床)では、地域に広がっていた悪評を払しょくし、住民たちの信頼を取り戻すことに成功した。毎年赤字を積み上げていた財務状況もこれにつれて好転し、「V字回復」を成し遂げた。しかし、同病院の中村英次郎副院長は、「病院経営にV字回復などあり得ない」と素っ気ない。【兼松昭夫】
■ 「病院に来ないように」
11月24日の日曜の昼下がり、明野中央病院そばのホールに地域住民ら約500人が集まった。同病院が主催する「健康セミナー」を聴きに来た人たちだ。5回目になる今回のセミナーは、「“元気が出る”講演会」がテーマ。“わらじ医者”として知られる89歳の現役医師、早川一光さんを講師に招き、老後を明るく生きる秘訣を語ってもらった。
地域の人たちに元気でいてもらおうと、セミナーは2008年から毎年のように開いている。「われわれの使命は地域の人たちに健康を提供すること」と中村副院長。「病院に来てほしい」と訴えるのではなく、来ないようにするにはどうすればいいのかを伝えたいという。
地域との交流は同病院が重視する取り組みの一つだ。
「病院食をおいしくして」「会計をもっと早く」。自治会関係者らによる「ふくろうの会」では、半期ごとの病院の取り組みを報告したり、病院への苦情や要望を聞いて業務改善に取り入れたりする。「中小病院に必要なのは、地域の人たちにまず好かれること」というのが中村副院長の考えだ。
里谷和幸事務長は、こうした取り組みが「結果的に」増患につながっていると感じている。実際、一般病棟45床(うち亜急性期10床)の病床利用率は、11年の実績で9割を超えた。開業医との連携も進み、平均在院日数は同年に13.4日まで短縮できている。
■一時は閉院も視野
しかし、中村副院長が入職した17年前、病院の状況は全く違っていた。住民たちに好かれるどころか、「毛虫のように嫌われていた」(中村副院長)。
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