病院にとって、数十年に一度のビッグイベントとも言える病棟の建て替え。多額の資金を要するほか、工事中に稼働病床数などの制限を受けることもある半面、現場の声を反映させ、よりよい医療を提供できる体制を実現する好機でもある。しかし、竣工した新しい病院が理想と程遠く、職員が「こんなはずではなかった」と肩を落とすケースも。現場の声を、ずれなく建て替えに反映させるには、どうすればいいのか-。医療・福祉施設を設計したり施工したりする関係者で構成する「医療福祉環境エビデンス研究会」の幹事2人に、理想を実現するために押さえるべき勘所を聞いた。【佐藤貴彦】
「病棟の建て替えでは、『こんな病院にしたい』という構想が大事。でも、それだけではうまくいきません。最初の病院職員らの構想を、設計者や施工業者、そして新しい病院を運用する医療従事者らにまで、受け渡す『伝言ゲーム』をきちんとすることで、初めて構想を実現できます」-。そう話すのは、研究会の幹事で、病院の設備設計に従事する伊藤昭氏だ。
例えば、病棟の屋上を、機械を置くほかは空きスペースにし、将来の増築に使おうと職員が思い描いているとする。設計業者は、職員の意図を咀嚼して機械を屋上の端に寄せ、増築スペースを確保できるように図面を作成する。工事業者も意図を共有し、図面通りに機械を設置すればいいが、もし意図に気付かず、図面を「機械を置きさえすればいい」と読み取れば、機械を屋上の中心に置くかもしれない。そうなると、予定していた増築が難しくなってしまう。
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