消防署だけでなく、医療機関、大規模集客施設などに広がりつつある救急救命士。豊富な実務経験を持ち、一定期間の病院実習などを受けた救命士を、「指導救命士」として現場の柱に据えようとする動きが具体化してきた。しかし、病院前救急診療に力を入れている“本場”の米国では、教育を着実に積み重ねて技量のレベルアップにつなげているのに対し、日本では、救急隊の「隊長教育」を実施中の消防本部は1割強にとどまるなど、課題が少なからずあるのが実情だ。救命率向上を図るため、どのような教育が必要なのか。国内外の現状や課題を探った。【新井哉】
「慢性心不全について、あなたのアプローチアウトライン(定義)を述べてください」。米国の救急救命士の最終試験。2症例の事例提示と心電図判読、150問の選択問題をこなさなければ、「現場でより多くの命を救う」との夢はかなえられない。米国のシアトルで2か月間、“世界最高峰”の教育体制を間近で見る機会を得た、愛知医科大医学部の青木瑠里助教(地域医療救急学講座)は「パラメディック(救急救命士)は責任と誇りを持って動いていると感じた」と振り返る。
青木助教は、国内の救命士の教育方法に疑問を持ち、約40年の歴史を持つシアトルの教育課程を研究しようと渡米。現場重視の訓練では、「患者を診てから考える。人があっての訓練」と強く感じたという。例えばメディカルコントロール時に、指示を受けた救命士は素早く、適切に行動し、「動くことと考えることが、自然にできる態勢になっていた」と説明する。
「挿管は日本とさほど変わらなかったが、スキルや考えを口頭試問でやっていた」と日米の国家試験の違いを挙げる青木助教。心臓や循環器系の試験では、マネキンを使いながらも、見るのは波形だけ。IV(静脈内投与)も確保せず、波形を見てどのような行動を取るのかが重視され、「考えることが評価されている」と実感したという。
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