2014年度の診療報酬改定をめぐり、日本医師会は、社会保障・税一体改革の関連法で規定された社会保障の充実と、同年4月からの消費税率引き上げによる医療機関の負担増への手当て、地域医療の再興の3点で、それぞれ診療報酬本体の引き上げを主張していく。必要な財源は、社会保障の充実に約1000億円、消費税負担の緩和には約2200億円で、地域医療の再興には、それら以上の額が必要だという。横倉義武会長が22日、キャリアブレインの取材に応じた。【聞き手・佐藤貴彦】
-社会保障・税一体改革で規定された社会保障の充実への考えを教えてください。
社会保障・税一体改革は、消費税率を引き上げる代わりに、社会保障を充実させるという国民との約束です。政府は14年4月に消費税率を3%引き上げますが、引き上げによる消費税増収分は、すべて社会保障の充実と安定化に使われることになっています。消費税が増税されたにもかかわらず、社会保障が充実されなければ、約束を違えることになります。
財務省などの試算によると、14年度の増収分は5兆1000億円程度。政府は、この中の1000億円を、「医療・介護サービスの提供体制改革」に使う方針を示しています。具体的には、病床の機能分化・連携や在宅医療の推進、地域包括ケアシステムの構築などに費やすとしていますが、この1000億円は、診療報酬本体に積み増しされるものだと考えます。
-消費税率引き上げによる医療機関の負担への手当てについてはいかがですか。
一体改革の関連法では、消費税率の引き上げで増える医療機関の負担を、診療報酬などで手当てすることになっています。8%に引き上げる際の対応については現在、中央社会保険医療協議会の分科会で議論が進められているところですが、事務局の厚生労働省は、機械的な試算として、診療報酬本体を1.2%引き上げることで対応可能だとの案を示しています。厚労省の計算式では、税率引き上げで負担が増える割合を「消費者物価への影響」を用いて算出していますが、本来は「消費税率」を用いるべきです。
この点を改めると、消費税率3%引き上げ時に必要な診療報酬本体の引き上げは、過去の消費増税時の対応不足などを勘案しない場合、1.36%になります。この割合を、財務省が示す今年の国民医療費の予想額42兆円程度に乗じると5712億円程度で、このうち公費負担はおよそ2200億円です。
-では、それら以上に積み増すべきという地域医療の再興のための本体引き上げは、どのようなことに必要なのでしょうか。
主に、中小病院や有床診療所、かかりつけ医機能を担う診療所などの役割を評価すべきものだと考えます。診療報酬本体はこれまでの改定で、10年度に1.55%、12年度に1.379%、それぞれ引き上げられました。これらの引き上げで、崩壊の危機に瀕していた急性期の救急科や産科、小児科などの医療提供体制が、ある程度持ち直すことができました。一方、その受け皿となる医療機関や在宅療養中の患者さんを支える医療機関の評価は、今も十分とは言えません。
今後重要となる地域包括ケアシステムでは、高度急性期から在宅までの切れ目ない医療提供体制をつくることを目指しています。そのためには、かかりつけ医の機能を診療報酬でしっかりと評価することが必要です。一体改革に基づいて社会保障の充実に充てる約1000億円にも、そのための財源が含まれますが、それだけでは国民が安心できる医療提供体制は実現できないでしょう。そのためにも多くの財源が必要だと認識しています。その財源には、薬価の引き下げ分も充てるべきでしょう。
■過去のマイナス改定の結果、「教訓に」
-経済財政諮問会議の民間議員らは、薬価を引き下げて捻出した財源を、そのまま診療報酬本体の引き上げに充てるべきではないと主張しています。
薬価の引き下げ分を診療報酬本体の引き上げに充てる運用には、しっかりと裏付けがあります。まず、健康保険法上では、診察と薬剤・治療材料の支給、処置・手術などを、不可分一体のものとして位置付けています。その財源を切り分けるべきではありません。さらに、手術などの技術料の一部には、治療の中で投与する薬剤の分の費用が含まれているものもあります。こうした点から、民間議員の主張は、これまでの政策的な流れを無視した議論だと言えます。
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