世界最先端のがん医療技術の創出を目指し、9月に国から総合特区の指定を受けた群馬県が、国内で希少な重粒子線治療施設を中核にした研究開発拠点の構築に乗り出した。研究開発に加え、国内外で活躍できる「がん医療従事者」の育成にも力を入れ、世界の放射線医学を牽引する次世代リーダーの育成拠点づくりを目指す。重粒子線治療は海外での関心も高く、医療の国際展開を後押しする経済産業省の期待も大きい。県は今後、重粒子線治療施設と周辺機器、サービスを一体化させた海外展開も視野に入れ、事業を進める方針だ。【新井哉】
「医療産業は経済のけん引役として期待されている。産学官、医療機関、金融機関の関係者が一体となって、群馬の新時代を拓き、医療産業の拠点形成に挑戦してほしい」。今月18日に群馬県前橋市で開催された医療産業シンポジウムで、同県の大澤正明知事は、医療関連事業を全面に打ち出した特区の意義をこう強調した。
県が特区の“主役”に据えたのは、2010年3月から治療を開始した群馬大の重粒子線医学研究センターだ。重粒子線によるがん治療は、炭素イオンを光の速さの約70%まで加速してがん細胞に照射する放射線治療法。外科手術や化学療法に比べて臓器の形を損なわず、副作用も少ないため、術後のQOL(生活の質)が高いといわれている。
この治療で使用する重粒子線治療用加速器は、▽荷電粒子を発生させて前段の加速を行う入射器▽荷電粒子を高エネルギーに加速するリング状主加速器▽加速した粒子線を使用する治療室まで輸送するビーム輸送系―で主に構成。こうした重厚長大な施設の建設費に加え、治療に当たる専門医や放射線技師らの育成、医療保険適用外による受診の“狭き門”が課題となっていた。
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