日本医師会常任理事の葉梨之紀医師は、神奈川県海老名市に診療所を開設して約40年の「ベテラン開業医」。かかりつけ医として、週に1度の外来診療で、なじみの患者の健康状態に今も目を配っている。「元は東京出身の『よそ者』でした」と開業当初を振り返る葉梨医師は、地域に溶け込む力がなければ、医療行為の手腕があっても開業医としての成功は望めないと語る。【佐藤貴彦】
葉梨医師が診療所開業のやりがいを初めて感じたのは、妻で保健婦(当時)の美子さんの影響だった。医師国家試験に合格し、卒業した横浜市立大の付属病院で整形外科医として働き始めてから、美子さんの働く同県綾瀬町(同)に家を借り、大学病院やその関連病院へと、まだ一部が単線だった相鉄線で通っていた。
「綾瀬が、市ではなくて町だったころの話です。深刻な医師不足で、救急体制が整備されておらず、深夜に誰かが吐血した場合、まずは家族が町役場に相談していました。そこに勤めていた妻が呼び出される時に、僕も引っ張り出されました。今思えば、医師が地域にかかわる方法が、大学病院にいる以外にもあるのだと知るきっかけは、妻が与えてくれました」と葉梨医師は話す。
このころから、開業してほしいと住民に依頼されることが多々あったが、大学病院での修練はまだやめられないと断った。そんな中、海老名市の土地を譲ってもらえることになり、通勤が少し楽になると引っ越した。そのころ、同市に医師は珍しく、「街に医者がやって来た」と、大きなうわさになった。
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