【第128回】山野嘉久さん(政府HTLV-1特命チームオブザーバー、聖マリアンナ医科大難病治療研究センター分子医科学研究部門長)
発症すれば、およそ1年で命を落とすとされる成人T細胞白血病(ALT)。その原因ウイルス「HTLV-1」の抗体検査が今月、公費負担で行われる妊婦健診の項目に追加された。感染拡大が見過ごされてきたHTLV-1だが、その対策が転換期を迎えている。政府の特命チームで専門家オブザーバーを務める聖マリアンナ医科大難病治療研究センター分子医科学研究部門長の山野嘉久さんに聞いた。(烏美紀子)
発症すれば、およそ1年で命を落とすとされる成人T細胞白血病(ALT)。その原因ウイルス「HTLV-1」の抗体検査が今月、公費負担で行われる妊婦健診の項目に追加された。感染拡大が見過ごされてきたHTLV-1だが、その対策が転換期を迎えている。政府の特命チームで専門家オブザーバーを務める聖マリアンナ医科大難病治療研究センター分子医科学研究部門長の山野嘉久さんに聞いた。(烏美紀子)
―HTLV-1は、どんなウイルスですか。引き起こされる病気とは、どのようなものでしょうか。
1980年に発見されたウイルスで、ヒトのT細胞に白血病を起こします。重要なのは、いったん感染すると、現代の医学では排除するのが不可能だという点です。国内の感染者は100人に1人、約110万人と推計されています。これは、B型肝炎やC型肝炎に匹敵する数です。感染した細胞が、40-60年かけてがん化するとATLを起こし、数年から数十年で炎症を起こしやすい細胞に変化すると「HTLV-1関連脊髄症(HAM)」を発症しますが、ほとんどの場合、何も起こりません。発症率はATLが約5%、HAMは約0.3%です。
ただし、ATL患者は、今や白血病の中で最も死亡率が高く、毎年1000人以上が亡くなっています。発症後の平均生存期間は13か月と、非常に予後の悪い病気です。一方、神経難病のHAMは、両足がまひする・痛む、尿が出ないといった症状が進行し、車いすや寝たきりの生活になってしまいます。ATLもHAMも、発症を予防する方法や治療法は、残念ながら確立していないのが現状なのです。
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