昨年7月に開院した第二川崎幸クリニック（川崎市）で院長を務める関川浩司（61）は、「たくさんの困難も、周りの人に恵まれて乗り越えられた」と、これまでの医師としてのキャリアを振り返る。

　福島県立医科大を卒業し、同大病院で勤務して6年が経った1986年のことだ。関川は、第二外科の医師として経験を積みながら、大腸がん患者から採取した血清を収集、今では一般的なCA19-9腫瘍マーカーの研究をしていたが、動物実験を通じて原発巣と転移モデルの関係などを研究している海外の施設の事例を知り、留学したいと考えていた。 ■海外の施設に片っ端から手紙送り、自分を売り込む 　海外留学先を探すためにCA19-9をキーワードに論文を調べ、その中の20近い施設を選び、論文の下段に記されていた、それぞれの施設の所在地に片っ端から手紙を書いた。手紙には「日本で今、臨床研究をしているCA19-9について、そちらの施設で研究してみたい」と書いて売り込んだ。医局も通さずにまったくの単独行動で、先輩や同僚には内緒にしていた。 　連絡が来たのが2カ所。カナダのマックマスター大（オンタリオ州）病院とオランダのリンブルグ大（現、マーストリヒト大）病院からだった。妻と相談してカナダを選んだ。2人の子どもも連れて渡航する準備を進めていたが、突如キャンセルになった。「日本の別の大学の医局を通じて、研究員を受け入れることになった」というのが理由だった。 　カナダ行きは頓挫したが、海外留学はあきらめなかった。同じく声を掛けてくれたオランダのリンブルグ大病院に再度、連絡を取り、事情を説明した。当時、同大病院の病理学教室で助教授を務めていたヤン・ウイリアム・アーレンズ氏から、「迎え入れたいが、滞在中の資金援助ができない。オランダ政府の奨学制度を利用してほしい」と言われた。 　早速、奨学制度試験に向けた準備に取り掛かった。関川は、その当時のことを鮮明に覚えている。日々の業務をしながら、たくさんの10円玉を握り締めて、薄暗い場所にあった病院内の公衆電話から、周りの目を気にしながら在日オランダ大使館につたない英語で何度も電話をした。手術と手術の合間を縫って、電話をしたこともあった。 　オランダ大使館は、東京タワーの真下にある。試験会場は大使館だった。論文と面接試験に合格し、オランダ行きが決まった。

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