医療・地域連携の仕組みをクラウドで構築
AWSが国際モダンホスピタルショウでセミナー
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(AWS Japan)は、7月に開催された国際モダンホスピタルショウで、「AWSクラウドの活用事例~生成AI活用とセキュリティ対策~」をテーマにセミナーを開いた。医療分野での生成AIの可能性などを会場に集まった100人を超える参加者と探った。
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同社公共部門ヘルスケア事業本部本部長の大場弘之氏が、ヘルスケア事業の取り組みについて講演した。2024年度診療報酬改定では、「診療録管理体制加算」の施設基準で医療情報システムのオフラインでの保管を求めるが、クラウドサービスもオフライン保管方式のひとつになるなど、これまで以上に同社へ注目が集まっている。
同社は2006年からクラウドサービスを開始。現在245の国・地域で展開しており、ユーザー数は世界で数百万、日本でも数十万以上に上るという。最大の強みは「AWSグローバルクラウドインフラストラクチャ」と呼ばれる安全性、広範性、信頼性に優れたクラウドプラットフォームを構築し、サービスを提供していることだ。世界を33の地域に分け、電力供給などで独立した複数のデータセンターを持つ「アベイラビリティーゾーン(AZ)」を地域の中に立ち上げている。1つのデータセンターが自然災害などを受けても他のセンターがカバーし、システムダウンを防ぐ設計がされている。日本は東京と大阪の2地域でAZを運営しており、日本市場への期待の大きさがうかがえる。
世界中で採用されている同社のサービスで、ヘルスケア事業のミッションを、個人に合わせた医療へのアクセスと提供を可能にし、コストを抑えながら成果の向上を推進し、医療データのデジタル化と活用を加速する-と掲げる。そのミッションの具体的な取り組みとして、現在、安心・安全に医療情報が活用できるデジタルヘルスケアシステムとなるプラットフォームづくりを進めている。
同社が推進するデジタルヘルスケアシステムで大きな柱となるのは▽医療ITインフラの最新化▽分析と予測▽患者に寄り添うー3項目。これを「グローバルでヘルスケアに特化したチームで対応している」(大場氏)のが同社の強みだ。藤田医科大学や国立病院機構本部では同社のクラウドサービスを活用した取り組みを展開しているが、それ以外の医療機関、ヘルスケア関連の企業などにもサービスを提供している。今後もさまざまな医療機関や企業にサービスを提供しながら、「医療連携、地域連携の仕組みを構築していきたい」と強調した。
昨今増えている医療機関へのサイバー攻撃への対応についても、医療情報ガイドラインに準拠しサービスを提供している点や、バックアップしているデータを再び医療機関などへ戻す「リストア」の仕組みを大場氏は紹介した。また、医療分野での生成AIのユースケースとして、▽患者体験▽職員生産性向上▽事務運営改善▽研究-の4つに分け、想定されるうる例を挙げた。例えば、患者体験向上では、「チャットボット・バーチャルアシスタント」や「問診内容の提案支援」、職員生産性向上としては「会話型検索」、事務運営改善だと「議事録自動作成」などを示し、「さまざまユースケースがあり、医療機関と相談しながら進めている」と大場氏は述べた。
■簡単に生成AIのアプリケーションを構築
同社は200を超えるクラウドサービスを提供。その中の1つに生成AIがあり、さまざまなサービスと組み合わせることで、専門的な知識があまりなくても、ゼロから構築するより比較的簡単に生成 AI アプリケーションを構築できる。こう話すのは同社ソリューションアーキテクトの吉村弘明氏だ。
「AWSではじめる生成AI活用」をテーマに講演した吉村氏は、藤田医科大学の事例を紹介した。医師や医療従事者が業務時間の多くのを文書作成に費やしている。藤田医科大学病院では、退院サマリの作成に1患者当たり10分近くを要していた。年間手術件数が1万4000件を超える同病院にとって、こうした文書作成に費やす時間を減らすことは、働き方改革に直結する。そこで同社の生成AIを使って、呼吸器内科の検証用データで実証実験を行ったところ、「時間削減ができる可能性を示された」(吉村氏)という。
こうした精度の高い生成 AI アプリケーションの実現は、同社の「Amazon Bedrock」が支える。生成AIは、データから学習したパターンや関係性を活用し、テキストや画像などを新たに生成するが、その際にポイントとなるのが基盤モデルと呼ばれるAIのいわば“頭脳”だ。Amazon Bedrock の特徴は▽厳選された基盤モデルから業務に最適な基盤モデルを選択・活用▽自社データを使用し、基盤モデルをセキュア・プライベートな環境でカスタマイズ▽ガードレール機能で望ましくない出力をフィルタ、責任あるAIを支援▽フルマネージドな検索拡張生成(RAG)でハルシネーションリスクを軽減-の4つ。特に、AIでは、事実とは異なる内容や文脈とは無関係な文章が作成されるハルシネーションと呼ばれるリスクがある。そのリスク低減のため、外部の情報源による正しい情報を埋め込み生成するRAGという方法を用いるが、自前で実装することなく、RAGの機能を実現できる仕組みがマネージドで提供されている。
こうした特徴を説明した吉村氏は「ゼロから構築するよりも簡単に生成AIのアプリケーションをつくることができる」と強調した。
■課題・リスク理解し、実装目指す価値あり
また、国立成育医療研究センターシステム発生・再生医学研究部室長の岡村浩司氏は「医療×AI:AWSの生成AIサービスと切り拓く医療の新時代」をテーマに講演した。同センターはAIホスピタルプロジェクトとして、小児・周産期病院でのAIを用いた医療の実証を行っている。
遺伝カウンセラーを生成AIに置き換えることは可能か-。岡村氏は実際に、生成AIを使って試みており、その中でのエピソードを明かした。「わたしも夫も、身長が高くありませんが、わたしたちの赤ちゃんはどうなるのでしょうか」との妊婦からの問いに生成AIが答えるというもの。「成長過程を見守り、子供の健康的な成長を支援することが大切」などと“AI遺伝カウンセラー”は回答した。
遺伝カウンセラーは、遺伝医療を必要とする患者や家族を支援する専門職のため、生成AIへの反感が強いという。あえて生成AIを使ってみた岡村氏は「患者さんに寄り添った非常に美しい日本語で返してくれて、びっくりさせられた」と振り返る。
また、遺伝カウンセラーの資格を取得するためには、認定試験を受けなければならない。その試験を生成AIに解かせた時のエピソードも語った。最初の点数は100点満点中48点と半分にも満たなかったという。配点や合格点は公表されておらず、あくまでも岡村氏独自の配点での採点だが、発表されたばかりの最新基盤モデルに変更して試したところ85点と合格点に。その後関連する内容を解説しているウェブサイトから情報を集めてRAGを構築し、満点を取れるモデル構築したことを明かした。生成AIシステムの要となる大規模言語モデルが「日々進化していることを、僕らはよく理解しておかないといけない」と述べた。
一方、課題として、共感と信頼関係の構築は機械では代替できないと考えている関係者が多いこと、そもそもカウンセリングは医師の指導のもとに行わなければならないと定められている医師法、医療法、薬機法などの問題、ハルシネーション、ディープフェイクといった生成AI独自の問題などがあることを指摘。課題やリスクを理解したうえで、「試用を進め、実装を目指す価値は大きい」とした。
▽医療機関における AWS の取り組みをご紹介
https://aws.amazon.com/jp/government-education/worldwide/japan/HLC-Industry-Site/
医療介護経営CBnewsマネジメント
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