“医住同源”を本気で探るスウェーデンハウス
第1話 人口増と医療機関誘致に挑戦するまちづくり
まちづくりや住まい心地の追及から医師不足や超高齢化社会の課題解決に挑戦する住宅メーカーのスウェーデンハウス。社名に冠する国の名から福祉大国「スウェーデン」を意識するが、そこには聖路加国際病院名誉院長の故・日野原重明氏の存在が大きい。遡ることおよそ半世紀前。将来の高齢化社会を見越し、日本の高齢者医療の遅れに警鐘を鳴らしていた日野原氏が、同社前身の経営幹部と海外の優れた住宅を視察した際、堅牢で断熱性能に優れたスウェーデン住宅に共鳴したという。創業から今年で40周年。高齢化社会を見据えた取り組みを蓄え、“医住同源”という新たな価値づくりに踏み出している。
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いま北海道石狩郡当別町が注目されている。スウェーデンハウスと当別町がタッグを組み、社会人口の増加や医師誘致で成果を上げているためだ。舞台となる中心は、当別町の一角で約700世帯が暮らす「スウェーデンヒルズ」(写真)。スウェーデンハウスが40年前に開発分譲を始めたニュータウンは、わずか20区画を残すのみ。もともとは、石狩新港関係者及び札幌に通勤する人々の住宅地として売り出され、今では7割の世帯が定住している。「多くは道外からで、現役、子育て世代の移住が目立つ」(スウェーデンハウス・大川保彦取締役)という。
スウェーデンヒルズへの移住が増え、当別町にも大きな転機が訪れている。2022年の「社会人口」がプラスに転じた。つまり、当別町を出る人よりも、他の地域から移住し、当別町で暮らす人の数が上回った。減少傾向が続く当別町にとって、「社会人口増で、町全体に活力が生まれており、出生数、死亡数を含めた人口動態でも、23年にプラスに転じる可能性は十分あり得る」と後藤正洋町長は力強い。
人口減に歯止めがかかりつつある当別町のもう1つの大きな課題は医師不足。当別町は全国的にもまだ珍しい「医療機関誘致条例」を制定。その効果はすぐに表れた。わずか1年余りで耳鼻咽喉科と消化器内科、内科でそれぞれ外来診療を行う3つの医療機関が開業した。その一人の東山佳澄院長は、スウェーデンハウスと行政が連携した取り組みに共感。横浜市から移住し、22年12月、「スウェーデンヒルズ耳鼻咽喉科」を開業した。東山氏が移住を決めた理由は-。スウェーデンヒルズを中核に地殻変動が起きている当別町のいまの姿・これからの姿を、後藤町長(写真左)、東山院長(写真中)、大川取締役(写真右)が語った。(以下敬称略)
-スウェーデンヒルズへ移住して、当別町で開業しようと思われたきっかけは。
東山 以前は横浜市磯子区で、耳鼻咽喉科のクリニックを開業していました。都会の中で、毎日時間に追われ、仕事をこなす事に少し嫌気がさしていました。ゆっくり診療しながら、患者さんとしっかり向き合いたいと思ったことがきっかけとなり、移住に関心を持ちました。とは言え、当初は北海道を含む遠方への移住は考えていませんでした。磯子区よりは少しのんびりできる首都圏のどこかで、というイメージでした。
いくつか住宅展示場に足を運ぶと、妻が先にスウェーデンハウスに一目ぼれし、神奈川県内をはじめ、方々のモデルハウスを巡っていました。そのうち、スウェーデンヒルズへの移住を勧めるイベントが豊洲モデルハウスで開催されるというので、試しに行ってみたところ、当別町の関係者と実際にスウェーデンヒルズに住まれている方に出逢いました。そこで、医療機関誘致を検討していることを聞き、当別町に興味を持ちました。その夏に現地に視察に行った際、町の美しさと当別町の環境の良さに私も妻も一目ぼれしてしまい、移住を決意しました。
―医療機関の誘致を検討した理由は。
後藤 当別町の大きな課題の1つとして医療の安定提供があります。住民を対象としたかかりつけの医療機関についてのアンケートでは、約半数が札幌市で、町内にあると答えた人は3割強でした。しかも、札幌市にかかりつけ医を持つ住民の多くは自動車を使って移動しています。高齢化が進む中、自動車による通院ができなければ、医療の提供を受けられない住民も出てくる恐れがあります。そうならないためにも、かかりつけとなる医療機関を町内に整備することは重要なことなのですが、現実には、そう簡単ではありませんでした。この5年ぐらいで町内にある2病院が閉院し、他の医療機関にも誘致を求めたのですが…。
そこで当別町では、医療体制の安定確保などを目的に、21年12月に「医療機関誘致条例」を設け、助成環境を整えました。例えば、土地・建物に対しては、4000万円を限度に、取得価格の2分の1を、当別町で新たに開業した医療機関に補助します。医療機器の取得や在宅医療への支援など幅広く手当てしています。
東山先生は、この条例を活用された最初の医療機関です。現在までに、他に2つの医療機関(消化器内科、内科)が、新たに開業し、町内の医療提供の安定に大きく貢献されています。
-移住し、開業するということは、行政のバックアップと、そこで暮らしたいという移住先の魅了がそろってこそ、実現されるように感じます。スウェーデンヒルズと当別町について、実際に住まわれた前後の印象はいかがでしょうか?
東山 食べ物、空気、水、全てがおいしい。そして、移住して特に感じたことは、スウェーデンヒルズというエリアだけではなく、当別町の皆さんの優しさですね。昨年11月に移住して、初の大雪。クリニックの駐車場に除雪車が通った後の置き雪があり、対応に困っていたら、患者さん皆さんが雪かきをしてくれました。農作業で腰の曲がった80代のおばあちゃんが、スコップを持って雪かきの仕方を教えてくれました。町の景観も素敵で至る所に花々があるし、道路の整備もしっかりされている。都会暮らしでは得られない体験で、こちらに移住・開業して本当によかったと感じています。
大川 スウェーデンハウスを通じて、東山先生にこのようなお手伝いをさせていただけたことを、とても嬉しく思います。当社はこの地で約40年、スウェーデンヒルズを開発してきました。現在約700世帯が在住され、そのうちの7割は道外からの移住者です。スウェーデンヒルズは当別町の町内会の1つで、他の町内会とともに町全体を盛り立てています。毎年10月には、親会社のトーモクとスウェーデンハウスがマラソン大会を開き、町全体の活性化のお手伝いをしています。
-これからの取り組みについて教えてください。
東山 昨年12月に開業しましたが、既に町の人口の1割程度の1700枚を超える診察券を患者さんに発行しました。当別町にはこれまで耳鼻咽喉科がなかったと聞いています。困られていた患者さんがまだまだいらっしゃると思いますので、これからも真摯に向き合い、診察をしていきたいですね。
また、往診も行っていく予定で、訪問診療を行っている診療所とタイアップし、耳鼻咽喉科特有の嚥下障害(飲み込み障害)に対応していきたいと考えています。自宅で最期を過ごす方が増える中、食べ物を口から食べるということは、人間の尊厳にかかわる部分であり、とても大切なことだと思いますので、そういう方々に寄り添っていきたいです。
さらに、当別町は豪雪地帯ですので、冬場に医療機関へ行かなくてもいいように、症例は限定されますが、アレルギー性鼻炎などの慢性疾患に対してオンライン診療を普及していきます。農業地域でもありますので、日中、農作業で行けない方も、オンライン診療は適しています。当別町のかかりつけ医として便利に活用してもらいたいです。
後藤 今までの価値観にとらわれず、新たな価値観をどう共有しながら、100歳までどう生きるかということが、これから求められるのではないでしょうか。お金やモノという尺度ではなく、心の満足度が大切です。
東山先生が先ほど、80代のおばあちゃんから雪かきを教わったと話されましたが、そのおばあちゃんの子、孫…と、みんな東山先生のお世話になります。一方で、東山先生も、こうした人たちに支えられ、医療が提供できる。どこまでお互いに寄り添えるか。それが、これからの地域を支える力だと思います。
大川 スウェーデンヒルズの開発に着手した40年ほど前、全国各地でニュータウン開発が行われました。現在、空き家をはじめとするニュータウンの課題が目立ち始めています。幸いにもスウェーデンヒルズは、当別町の社会人口の増加に貢献でき、医師誘致のきっかけにつながる役割も果たすことができています。福祉大国であるスウェーデンの暮らしをイメージした取り組みが、実を結びつつあります。「揺りかごから墓場まで」。この考えをベースに、第2、第3のスウェーデンヒルズを生み出していきたいと考えています。
■以下をクリックするとスウェーデンヒルズの魅力がさらに確認できますhttps://www.swedenhills.jp/
■スウェーデンハウスHP
https://www.swedenhouse.co.jp/
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