調剤報酬は体系的見直しへ、調剤料分割の影響6%か
財政審建議「構造転換を図る姿勢が見えない」
対物業務から対人業務への評価の見直しが進められている調剤報酬は、最大の課題だった調剤料が対物業務評価点数と対人業務評価点数に分割された2022年度改定が大きな転換点となりました。また、大型チェーン薬局には調剤基本料1を認めない改定もありました。しかし、財務省は、この調剤料分割を形式的と批判し、「体系的見直しが不可欠」と指摘しています。薬局には対人業務へのさらなる取り組みが求められることになっていきます。
※この記事は「薬局経営NAVI」とのタイアップ企画です。
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1.調剤管理料を算定できない、薬歴管理体制のない薬局
対物業務評価の象徴的存在だった調剤料は、対物業務を評価する「薬剤調製料」と、対人業務を評価する「調剤管理料」とに分割され、4月から実施されています。
また、対人業務評価としての調剤管理料には、調剤料の評価の中にはなかった「薬剤服用歴への記録」が、必須要件として組み込まれました=図1=。薬剤服用歴管理指導料の中で評価されていたもので、かつて、記録をせずに同指導料を算定している薬局が多くあるとして社会問題にまで発展した経緯があります。
図1 2022年度改定による調剤報酬評価体系の変化
メディカルシステムネットワーク提供
現在、薬剤服用歴管理指導料の算定はどの程度行われているのでしょうか。算定が少なければ、4月改定後の調剤管理料の算定にも大きな影響が出ていると考えられます。
20年6月審査分を対象とした社会医療診療行為別統計で見ると、薬剤服用歴管理指導料の算定回数は5,005万回で、調剤基本料の合計算定回数5,313万回の94.2%となっています。調剤基本料を算定した中で、約6%では薬剤服用歴管理指導料が算定されていません。算定が不要なケースも中にはあると考えられますが、薬剤服用歴を記録、管理する体制がなく、それに基づく服薬指導ができていない薬局があることも想定されます。
薬剤服用歴管理指導料の対象となり得る患者でありながら、薬局の体制ができていないために算定していないとすれば、4月改定後には、薬剤調製料を算定した患者でも、薬歴管理が必須となった調剤管理料は算定できないことになります。
図2 新設された調剤管理料 -
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出典:厚生労働省2022年度診療報酬改定の概要「調剤」から
調剤管理料は、内服薬の場合、7日分以内なら4点で、算定できないにしても影響は少ないですが、8日分以上になると、28点、50点、60点が算定できないので、相当な減収になります=図2=。
過去のデータで考えると、今回の改定で調剤管理料を算定できないケースが、最大で調剤基本料の合計算定回数の6%弱あることになります。
これが、調剤料分割の直接的な影響となります。薬歴管理の体制のない薬局は、生き残りが難しくなっていきそうです。
2.調剤料分割、合わせ技で点数ややプラス
調剤料分割の点数配分はどうだったでしょうか。
薬剤調製料は、調剤料で問題とされていた日数倍数制(20年度改定後は日数段階制)が廃止され、1回24点の一律評価となりました。
一方、調剤管理料は、日数段階制が、1段階減らしながらも残されました。中央社会保険医療協議会・総会での議論では、日数段階制が残されたことに対し、支払側委員から強い違和感が示されたところです。
この分割された後の薬剤調製料24点と調剤管理料の日数段階制点数を足し合わせて、改定前の調剤料と比較すると、7日分以下は28点で据え置き、8日分以上14日以内は52点で3点引き下げ、15日分以上28日分以下は、改定前の15日分以上21日分以下と22日分以上30日分以下を統合して少し短縮した新区分で74点となり、21日分以下では10点引き上げ、22日分以上28日分以下は3点引き下げ、29日分以上の84点は2点引き下げとなっています=表=。
表 調剤料の分割による点数配分CBニュース編集部作成
15日分以上のところで、21日分以下と22日分以上30日分以下が統合されたのは、15日分以上21日分以下の点数の算定回数が少なかったことが要因になっているようです。
20年6月審査分の社会医療診療行為別統計では、内服薬の調剤料の算定回数は全体で7,709万回ありましたが、そのうち15日分以上21日分以下の算定回数は4.1%でしかありません。改定で10点引き上げとなりましたが、算定回数から見れば、実質的な引き上げ効果はごくわずかです。
一方、22日分以上30日分以下の算定回数の割合は、内服薬調剤料全体の40.1%で、15日分以上21日分以下の10倍でした。
改定では3点の引き下げですが、実質は15日分以上21日分以下の10点引き上げを打ち消して、改定後の新区分である15日分以上28日分以下としては、引き下げとなるでしょう。
改定前の調剤料と、改定後の薬剤調製料・調剤管理料の合計を比べると、全体として2点弱の引き下げと見ることができそうです。
また、対人業務に区分された調剤管理料では、最初に見たように、新たに「薬剤服用歴への記録」が必須要件とされました。薬剤服用歴管理指導料の中での評価から切り分けて、調剤管理料の要件とされたのです。
これにより、薬剤服用歴管理指導料は、薬歴への記録後に行う服薬指導の部分を評価する「服薬管理指導料」に名称変更されました。
さらに、新たな要件として、「保険薬剤師が必要と認める場合は、患者の薬剤の使用の状況等を継続的かつ的確に把握するとともに、必要な指導等を実施すること」が加えられました。
この新たな業務を評価するためか、服薬管理指導料の点数は、薬剤服用歴管理指導料よりも2点引き上げとなっています。
調剤料分割後の薬剤調製料と調剤管理料は、足し合わせると、8日分以上のところでほぼ2点引き下げとなったのですが、服薬管理指導料で薬剤服用歴管理指導料よりも2点引き上げとなったので、これを含めれば、いくらかのプラスと言えそうです。
薬局の現場感覚としては、改定後も従来の調剤業務をほぼそのまま続けていて、点数評価が2つに分かれたが、全体としては多少のプラスになっている。そうした受け止めではないでしょうか。
ただし、それは薬剤服用歴管理指導料を算定してきた薬局の場合です。調剤基本料算定回数に対して最大6%弱の、薬剤服用歴管理指導料を算定できていなかった薬局であれば、調剤管理料の部分がそっくり減収となっているでしょう。
3.技術料構成に起こされた地殻大変動
調剤料分割の結果は、分割前後の点数の差し引きでは大きな変化はなかったのですが、調剤報酬体系としては、大幅な組み換えとなりました。
調剤報酬の技術料は、第1章「調剤技術料」と第2章「薬学管理料」で構成され、調剤技術料についてはさらに、薬局の体制や規模などを踏まえた調剤基本料と、22年度改定前は調剤料という形で、大きく3つに分けて見ていました。
22年度改定に向けた調剤報酬見直しの1回目となった21年7月14日の中医協・総会に、厚生労働省は、技術料に占める調剤基本料、調剤料、薬学管理料の点数ベースの割合を提示し、▽調剤料の割合は減少傾向にあるが、引き続き技術料の50%を超えている▽対人業務を評価する薬学管理料は20%程度-と説明しました。
社会医療診療行為別統計によるデータを示したもので、20年の数値は、調剤料51.6%、薬学管理料19.9%、調剤基本料28.5%でした=図3=。
図3 調剤技術料の構成割合 -
出典:2021.7.14中央社会保険医療協議会・総会資料「調剤その1」から
22年度改定では、この状況を踏まえ、薬局・薬剤師業務の評価体系の見直しとして、調剤料の分割が行われたのです。
調剤料分割の点数配分の結果からは、以下のような姿を想定することができるでしょう。
調剤料に代わって、対物業務評価の点数となった薬剤調製料の割合は、40%を割り込み30%台となる可能性もあるとみられます。
逆に、対人業務評価の薬学管理料は、調剤料から切り分けられた調剤管理料が加えられたことで、一気に拡大し、30%台に乗せていくでしょう。
調剤基本料の28.5%は、月40万回以上または300店舗以上で集中率85%以下の大規模チェーン薬局を対象に「調剤基本料3ハ」(32点)が新設され、調剤基本料1(42点)から除外されたため、いくらかの減少となることが予想されます。
4.財政審、調剤報酬は体系的見直しが不可欠
社会保障財源の観点から、調剤報酬の在り方について、対物業務から対人業務への評価の転換とともに、調剤報酬全体としての引き下げまで主張してきた財務省は、22年度改定について、▽薬剤調製料と調剤管理料を足し合わせると、従前の調剤料とほぼ同様の点数▽薬学管理料の割合は形式的に増加-と指摘した上で、「これをもって、薬学管理料・対人業務中心への構造転換に資する体系的見直しが行われたと評価することは困難」と批判し、5月の財政制度等審議会建議で、「調剤報酬の在り方について体系的見直しは不可欠」との考えを改めて示しました。
調剤料分割については、これまで見てきたように、点数配分は分割後も改定前の調剤料と大きくは変わらず、薬学管理料の構成割合は増えることになりますが、「形式的な見直し」でしかないという指摘です。
課題としては、▽薬局数は増加の一途で6万施設を超え、人口当たりの薬剤師数はOECD諸国の中でも突出している▽調剤技術料は1.9兆円に達し、コロナの影響を受ける前まで年率2.4%と高い伸び▽他方、疑義照会の割合は約2.8%で処方変更の割合は約1.0%▽門前薬局が多く、同一敷地内薬局まで登場▽20店舗以上薬局の割合が増加し全薬局数の約4割▽集中率90%超の薬局が全薬局の約3分の1-など細部にわたる問題意識を示しています。
これらの課題に対応し是正を図ることを求めているのです。
また、リフィル処方箋の導入を踏まえ、薬局に対して、患者の服薬状況などを確認し必要に応じて受診勧奨を行うことなどで、▽薬学的管理・指導を的確に行える薬剤師の専門性▽患者・住民のさまざまなニーズに対応できる機能-を発揮していくことへの期待を示しました。
中医協としても、今後の改定に向け、こうした指摘を踏まえながら、さらなる対人業務の評価の在り方を検討していくことになります。対人業務への取り組みの状況が、今後の薬局経営の明暗を分けることになるでしょう。
医療介護経営CBnewsマネジメント
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