臨床意思決定支援システムで経営の質向上へ
ウォルターズ・クルワー・ヘルスがセミナー
臨床意思決定支援システム「UpToDate®」の開発・販売などを手掛けるウォルターズ・クルワー・ヘルスは9月27日、CBホールディングスと共催でオンラインセミナーを開いた。テーマは「急性期医療において病院経営・医療の質向上をいかに実践するか」。病院経営の質を高める一例として平均在院日数の短縮による入院診療単価の引き上げがある。その際のポイントの1つは適切な治療をいかに早く提供できるかだ。「UpToDate」は病名などを端末画面に入力、検索するだけで、治療方法などのヒントを与えてくれる情報源ツール。セミナー参加者は、実際に臨床現場で活用している事例の紹介を通じて、急性期医療での経営の質と医療の質を同時にどう高めればいいのかを考えた。
▽以下よりアーカイブ配信をご覧いただけます▽
「急性期医療において病院経営・医療の質向上をいかに実践するか」
https://www.wolters-kluwer.jp/archive2/
※2021年9月27日開催の録画動画をご覧いただけます
講演した井上氏(左)と徳田氏
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セミナーでは、沖縄県の群星沖縄臨床研修センター長の徳田安春氏が「医療の質向上のための臨床意思決定支援システム活用~UpToDateオンラインデモ~」をテーマに講演した。
■医師ら7,300人が情報を常時チェック
「UpToDate」とは臨床の疑問を解決し、意思決定を支援する情報源ツール。
ウォルターズ・クルワー資料より
治療法の選択や治療方針を決定する材料の1つとして、以前から医学ジャーナルや教科書などが情報源として用いられている。しかし、これだと関連の情報を探し出すのに時間がかかったり、担当する医師の専門外や希少疾患だと、そもそも治療法の選択肢すら挙げられなかったりする。また、医学ジャーナルなどには異なる見解が複数あることもあり、治療方針をスムーズに決めることができないケースもある。
「UpToDate」は、こうした以前からの課題を解消するために開発された。病名などを検索するだけで関連情報をすぐさま表示。治療法の選択肢の提示や治療方針の決定を情報面から支える。薬物療法では医薬品の選択を情報面から支援する。ウォルターズ・クルワーによると、平均約3分以内に回答へ到達できるという。
治療方針決定などの一助を担う「UpToDate」に掲載する情報は、各診療分野の第一人者である専門医ら7,300人以上の執筆者・編集者・査読者が独自に執筆した総説/レビュー論文集と付加価値コンテンツだ。参照する情報は425を超える医学雑誌と診断ガイドライン、教科書、医薬品モノグラフ(辞書)、文献データベース「PubMed」など。こうした情報を活用しながら、常に新しい情報へ更新している。
最新のエビデンス情報を提供するため、「UpToDate」のトピック記事は英語で作成される。もちろん最終的に訳文の精査は必要になるが、ブラウザの翻訳機能を使えば日本語での閲覧も可能だ。
対象となる専門領域は25分野。収録件数は、トピック記事で1万2,000件以上、医薬品情報が6,900件以上、図表や写真などの画像は3万6,000件に上る。大学病院や市中病院をはじめ多くの医療機関で導入されており、医療の質向上や死亡率が減ったという報告例もある。
■重度の大動脈弁狭窄症、早期の薬剤決定に貢献
群星沖縄臨床研修センターは2004年から「UpToDate」を導入している。徳田氏は自身で診断した以下の事例を基に使い方などを説明した。
セミナー講演資料を基に作成
ポータブルや超音波などを使い、徳田氏は、この患者を「重度の大動脈弁狭窄症」と診断。既に患者には労作時の呼吸困難など自覚症状が現れており、まずは投薬で早急に症状を抑えることが必要となる。
徳田氏は利尿剤「フロセミド」を投与する準備をしながら、最新のエビデンスを確認するために、「UpToDate」から急性心不全である「ADHF」と入力し、検索。利尿剤として「フロセミド」を選択し、スマホ画面に表示された文献を参考にしながら、「フロセミド」のエビデンスを確認した。他の薬剤については、「初期治療としてのエビデンスは弱い」ことも確認できた。
講演で紹介された検索画面を基に加工
「フロセミド」の文献には60分を超えると死亡率が高くなると書かれていた。薬剤決定までの判断時間も医療の質向上には欠かせない。判断が遅れれば、それだけ院内死亡のリスクが高まる。薬剤決定の迅速な判断にも「UpToDate」が大きな役割を果たしている。
セミナー講演資料を基に作成
徳田氏の適切な治療で、患者は症状軽快し、酸素化も改善、酸素投与も終了。その後、弁置換手術を受け経過は良好という。
■専門外での役割大きい
こうした「UpToDate」を活用した医療の質向上が経営にどんなインパクトを与えるのか。
セミナーでは、CBnewsマネジメントの人気連載「先が見えない時代の戦略的病院経営」でおなじみの井上貴裕氏(千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長)がコロナ禍の病院経営戦略について講演した。
井上氏は、入院期間2以内退院による診療機能の向上などで病院経営に成功している。病院経営で重要なのは医療の質と経済性のバランスだ。「入院期間の短縮は、どこまでも早く帰せと言っているわけではない」(井上氏)とし、標準的な治療をしていれば入院期間2以内の退院率は向上できるという。それだけに適切な治療が重要になってくるわけだが、専門外の医療では「UpToDate」の役割は大きいとの見方を示した。
▽以下よりアーカイブ配信をご覧いただけます▽
「急性期医療において病院経営・医療の質向上をいかに実践するか」
https://www.wolters-kluwer.jp/archive2/
※2021年9月27日開催の録画動画をご覧いただけます。
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