開院から70周年を迎えた社会医療法人緑壮会・金田病院(岡山県真庭市・172床)の理事長・金田道弘氏と井上貴裕氏(千葉大学医学部附属病院・副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長)が、病院経営について対談した。金田氏は人口減少が病院経営上の最大の課題であり、感染症への特例措置のように人口減少に対する補助金はないということを「私たち病院経営者は忘れてはならない」と話す。【編集、齋藤栄子】
※対談は7月14日にオンラインで実施。金田道弘理事長(写真左)、井上貴裕副病院長(右)
井上(以下、敬称略):新型コロナウイルス感染症により受けた影響は?
金田:外来患者をはじめ、救急車による搬送・入院患者・人間ドック健診受診者数が軒並み減少した。以前からすでに人口減少による経営危機は迫っていたが、一気に深刻になった。5年先、10年先の未来が一瞬にしてやって来たという印象だ。国の補助金のおかげでコロナ倒産は今のところ回避できているが、今年度以降、補助金がどうなるかは気掛かりなところ。
私は映画「シン・ゴジラ」に人生で最も感動し、映画館に12回足を運んだが、ゴジラ・人口減少・コロナ禍の全てに共通している点は、いずれも突然出現し、地域を危機にさらしていることだ。最も印象深い映画の中の言葉は、「人類はゴジラと共存していくしかない」というもので、ゴジラとも、人口減少とも、コロナ禍とも、私たちは「共存」していくことを迫られているように思える。
どんどん変化する時代に対処するためには、組織もリーダーも進化し続ける必要がある。病院経営の結果責任は理事長にあり、国や地域、組織内の変化や声に一層耳を澄ませていかなければと思う。
井上:組織内の変化に耳を澄ませることは大切だが、トップに対して本当のことを言ってくれない人も多いだろう。情報収集のために心掛けていることはあるか。また、地方の人口減少の中で医療を支えることの大変さ、事業継続のために課題となるのは何か。
金田:耳に痛いことを言ってくれる人こそ宝だと、やっと考えられるようになってきた。病院長をはじめとする数名による幹部会を毎朝行っている。昨夜の救急搬送の受け入れ状況や入院患者のことなど、重要事項を毎朝幹部で情報共有し、協議している。医師確保は数十年来の最大の懸案であり、大学病院を回って医師派遣を教授に嘆願したことは数限りない。最近になり、内科は若い医師が少しずつ集まるようになってきている。一方、看護師不足が深刻だ。看護師の不足により病床を閉めている状況もある。さらに、人口減少とコロナ禍による受診控えで患者不足になっている結果、病床利用率が低下していることが最大の課題だ。
井上:事業継続に向けた取り組みのポイントは。
金田:これまでに取り組んだポイントは大きく3点。(1)病床規模の適正化、(2)公益性の高い法人化、(3)近隣の病院との協調・連携・ネットワーク化だ。
当院は、私の父である金田隆弘が戦後の1951年に20床の個人病院としてスタートさせて、医療法人となり、出資持分を放棄して特定医療法人へと変遷した。父の病気のため86年より私が理事長を継承し、2009年に県下の病院では初の社会医療法人となることで、公益性の高い法人化を進めた。1967年のピーク時には278床あったが、敷地内に複数の建物があり、建て替えを迫られた約10年ごとのタイミングで、人口減少に合わせて病床規模を少しずつ小さくしてきた。現在の許可病床は172床だが、実働は144床だ。
最も近い直線距離400mの医療法人社団井口会・落合病院(1937年開院、特定医療法人、6月1日の移転新築を機に173床から135床に)とは、50年間切磋琢磨する関係だった。転機が訪れ、2002年から旧落合町内の3病院(落合・河本・金田各病院)で「落合3病院長会」という病院長同士の毎月の食事会を始めた。ところが、当院から2kmの河本病院が11年に倒産(破産)して地域に衝撃が走った。
一層の危機感と覚悟の共有が不可欠と考え、10年に立ち上げた「落合病院金田病院連携推進協議会」を、これまでにほぼ毎月、計93回、交互に両病院で2時間開催している。15年には、「落合病院金田病院連携協力推進協定」を締結した。これには、岡山大医学部医療政策・医療経済学の浜田淳前教授(現名誉教授)がボランティアで毎回参加くださり、貴重な助言を得られたからこそ、今までつながってこられたと考えている。
地域医療連携推進法人の制度創設に当たっては、内閣府から招聘され、落合病院との取り組みをプレゼンテーションした。私たちは同法人設立についても協議会で検討を重ねて、定款まで作ったが、現時点では法人は作らずに実質的な協議を毎月行うことを選択して、現在に至っている。
井上:法人化に踏み切らなかった理由は。
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