【株式会社CBパートナーズ 医療・介護・福祉事業部 齊藤章平】
医療・介護経営のパートナーとして、日々、経営者のお困りごとに共に向き合う立場から、業界動向についてのポイントを整理し、事業展開へ落とし込むためのヒントをお伝えする。シリーズ第2回は、介護上場大手の動向を踏まえて、今後の経営戦略のヒントをお伝えしたい。
介護上場大手の第2四半期(7-9月)の決算発表が、11月上旬から行われている。コロナ禍の影響を大きく受けた第1四半期と比べると、全体的に不安定さは残るものの回復基調にある。だが、前年同月比を見ると各社で差がついた。当然ではあるが、利用控えが顕著だった通所系サービスの占める割合が多い企業のマイナスインパクトは大きく、訪問系サービスが多い企業にとっては追い風となっている。入所系をメインとしている企業は、多少の影響はあったものの他サービスと比べると安定した業績を保った。
上記の結果から、コロナ下での報酬改定を前に、事業展開のポイントとなるのは以下だ。
(1)事業ポートフォリオの確立
(2)保険外サービスを含めた収益多角化
どちらも「上場企業だからできるのでは?」と思うかもしれないが、そうではない。 前回も述べたが、地域包括ケアシステムを構築するためには安定的なサービス提供と、さまざまなサービスの連携が求められる。その中で上記2点を整理し、取り得る手段を尽くすことが重要だと考える。
■理想的な事業ポートフォリオとは
事業ポートフォリオを適切に分散させることで、リスクは軽減される。まずはこの当たり前をしっかりと認識しておきたい。
例えばソラスト(本社・東京都港区)は、8月の日本エルダリーケアサービス買収に関して、第1四半期の決算説明資料で触れていた。ソラストの訪問介護事業所は通所介護事業所の半分以下だったが、買収により自社事業所数の約8割へとシェアを広げた。訪問・デイ・施設系をバランスよく展開する方針にのっとったM&A戦略である。
各企業が持っている資金、人、情報等のあらゆる資源・リソースによって適切なポートフォリオは異なるので、ぜひ各企業の決算説明資料や短信等を見て、自社に照らしていただきたい。
■介護事業は収益の多角化が比較的容易
「多角化」に失敗した経営者の話を多く聞くせいか、危なっかしい印象を持つ人も多い。しかし私自身は、介護事業は多角化が比較的容易だと考えている。理由は、(1)多くの介護サービスはすでに確立されている、(2)生活に強く紐付いているという2点だ。
各種介護サービスは、その提供内容や目的が介護報酬によって定義されている。接する利用者が同じであり、提供する体制をある程度つくれるのであれば、参入障壁はそこまで高くはない。ただし、要介護度の区分による違いや、介護サービスごとの技能・業務ノウハウ等は異なるため、注意が必要である。この点は改めて記載する。
また、介護サービスは利用者の生活と強く紐付くため、生活に関わる多くのサービスに分岐していく。診療報酬に定義される医療分野や障がい者福祉分野はもちろん、介護予防や配食、住居(不動産)、建築、生活必需品、保険等々、生活に関わるほぼ全ての事業とつながっている。ただ逆に、異業種からの参入も多く、自社の資源・リソースを見誤ると失敗してしまうことになる。
■多角化の難しさとは
まずはこうしたデメリットを見極める必要がある。
(残り2079字 / 全3492字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】