薬局の譲渡、処方医はどう見たか
薬局のM&Aで友好的な関係を築くには?(下)
薬局の譲渡を検討する際、処方医との関係性の悪化を懸念する経営者は少なくない。では、処方するドクターは薬局のM&Aをどのように捉えているのか―。うめがえ内科クリニック(島根県大田市)の梅枝伸行院長(59)は、かつて処方していた調剤薬局のM&Aについて、「患者の利便性を損なわせないために有効な手段だった」と肯定的に受け止めている。
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梅枝氏は、大学の内科や心療内科で研さんを積んだ後、大学からの人事により、1996年4月から石西厚生連日原共存病院(当時)の副院長に就任した。翌年には病院長となり、任期の5年間を通じて地域医療の多様性と経営の厳しさを学んだ。
その後、島根県の大田市立病院(大田市)や仁寿会加藤病院(川本町)に勤務した後、理想の医療を実践するため、2010年5月、50歳でうめがえ内科クリニックを開業した。目指したのは、患者がいつでも来ることができ、何でも診てもらえる「コンビニのようなクリニック」。現在は小児から働き盛りの人、高齢者まで幅広い世代が訪れる、かかりつけ医の機能を担っている。
■突然、M&Aの意向を打ち明けられて
梅枝氏は、門前薬局だった株式会社サン薬局(当時)のオーナーと10年以上の親交があり、仕事やプライベートのことなどさまざまな話をする間柄だった。
ある日の会話で、そのオーナーが「薬局の運営が体力的にしんどい」と語った。梅枝氏が詳しく尋ねると、「薬局を譲ろうと考えている」と打ち明けられた。
突然の話だったので、梅枝氏は驚いたが、次第に「それもありかな」と思うようになった。オーナーの大変さをよく知っていたからだ。当時60歳を超えていたオーナーは、店舗の運営から在宅訪問、薬の配達までを1人でこなし、毎日遅くまで働いて、休日はほとんどなかった。
「オーナーの体力面や将来のことを考えると、薬局の譲渡は今が一番いいタイミングかもしれない。大手の薬局グループに入って、彼が休日をしっかり取れるようになり、健康リスクが減ればいいと思いました」。梅枝氏は当時を振り返る。
■M&A後、薬剤師不足は解消
薬剤師の採用に苦戦していたことも影響し、オーナーはM&Aを決断。株式会社キャリアブレインのM&A支援サービス(現在は株式会社CBパートナーズに分社化)を利用し、13年5月に株式会社メディカルシステムネットワーク(以下メディシス)の傘下に入った。
処方医から見て、M&Aによって薬局はどう変わったのか―。
「譲渡後もそれまでのスタッフの雇用が継続されていたので、患者さんに影響を及ぼすことはありませんでした」と梅枝氏。
変わったことといえば、店舗で働く薬剤師の数だ。梅枝氏は、「薬剤師を豊富に抱えるメディシス(なの花薬局グループ)の傘下にサン薬局が入ったことで、人材不足の問題はある程度解決できたようです。その意味で、M&Aはプラスでした」と効果を口にする。
さらに、サン薬局が資金力のあるメディシスのグループに入ったことで、店舗の改築などに資金投入が可能となり、患者が利用しやすくなったこともメリットだと感じている。
■メリットは患者の利便性が確保できたこと
「1人薬剤師の店舗」では、経営者の高齢化や後継者の不在などで廃業のリスクが伴う。そのため、梅枝氏は「事業の継続性が危うい状態で薬局を運営するくらいなら、財務基盤や人材確保の体制などがきちんとしている薬局グループに入った方が、元の薬局や従業員、患者にとってハッピーになるケースが多い」と指摘する。
うめがえ内科クリニックが一番避けたかったのは、門前薬局の閉局によってクリニックの患者の利便性が損なわれること。つまり、患者が別の離れた薬局に薬を取りに行かざるを得なくなることだ。
「例えば、オーナーの病気などでサン薬局が閉局するのが最悪のパターンでした。M&Aによってそれが避けられ、当院の患者の利便性が確保できたのはよかったです」と梅枝氏。
■薬剤師との良好な信頼関係を実感
サン薬局とメディシスのM&Aが成立してから約5年半。梅枝氏は現在、サン薬局を承継した「なの花薬局石見大田店」の薬剤師と話し合う機会を毎週1回設け、緊密にコミュニケーションを図っている。
「一週間の中で起きた問題や、処方意図の確認、他の薬に変更した方がいいことなどを薬剤師に挙げてもらい、それについて話し合っています。以前よりも、薬剤師といい信頼関係が築けていると実感しています」(梅枝氏)。
クリニックでは現在、訪問診療にも力を入れており、サービス付き高齢者向け住宅やグループホームなどを中心に100件以上の訪問診療を実施。また、最近は過剰なストレスによる心身の不調を訴える患者が来院するケースが増えている。
「心と体は一体のものという考え方に基づき、患者さんの声に耳を傾けて心身の痛みを減らしたい。そのために精神疾患などについて学び、もっとスキルを上げたい」。梅枝氏の向上心は尽きない。
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