変革する医療現場を支えるDXのチカラ~座談会シリーズvol.1~
タスク・シフト/シェアの実現、ヒューマンセンタードの中でのDX
2024年度診療報酬改定で重点課題と位置付けられた「人材確保・働き方改革等の推進」。医療現場では、試行錯誤しながらタスク・シフト/シェアなどをこれまでも実践してきました。4月からは、医師の時間外労働の上限に対する規制もはじまり、課題解決に向けた取り組みが、いよいよ本番を迎えました。それらさまざまな改革を背後で支えるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。ネットワークインフラとITサービスを手掛ける「アライドテレシス」(東京都品川区)は、医療現場で変革の旗手を担うキーパーソンと考える特別企画「変革する医療現場を支えるDXのチカラ~座談会シリーズ~」をスタート。vol.1は、人数を変えずに「静脈確保」や「RI投与」「抜針・止血」で医師・看護師とのタスク・シフト/シェアの実績を上げている熊本大学病院 医療技術部 診療放射線技術部門の副診療放射線技師長でタスクシェア推進リーダーを務める池田龍二氏と考えました。
【関連記事】
岡本氏 熊本大学病院の診療放射線技術部門でのタスク・シフト/シェアの状況を教えてください。
池田氏 「静脈確保」「RI投与」「抜針・止血」についての医師・看護師から診療放射線技師へのタスクシフトは2022年2月でゼロでしたが、半年後には大きく変わりました。同年8月の1カ月間の核医学部門での取り組みを見ると「静脈確保」は56件、「RI投与」が65%、「抜針・止血」では62%に。熊本大学病院の病床数は845床、診療放射線技師は48人で、人を増やさず、医師・看護師からの診療放射線技師へのタスクシェアを進めることができました。
このタスクシェアによって、医師・看護師の行動にさまざまな変化が起きました。例えば、タスクシェアをする前までの核医学検査におけるRI投与は、2人の医師がほとんど対応していました。RI投与の4、5割を診療放射線技師がシェアするようになってからは、1日あたりA医師は44分、B医師は95分、読影端末にアクセスする時間がそれぞれ増えました。
核医学の検査数は変わりませんが、それ以外のモダリティの検査の読影をサポートするなどの時間が生まれ、3ヶ月で読影件数を500件増やすことができました。
木村氏 1つの部門での働き方改革が、全体に波及するという、とても興味深いお話ですね。一方で、診療放射線技師の方々からすると業務量が増えたことにもなりますが、診療放射線技術部門のみなさんのタスク・シフト/シェアに対する受け止め方が気になります。
池田氏 今回のタスク・シフト/シェアの推進は、診療放射線技師にとってリスキリングと捉えています。タスクシェアによる成果として、生産性と効率性が向上したと一緒に働くスタッフ全員が感じています。特に、待ち時間の短縮は大きいかと思います。また、各スタッフにアンケートを実施しましたが、コミュニケーションの質、専門性、ストレスレベルにおいて、各職種で向上していました。コミュニケーションの向上は、医療安全の質と安全の面からも大きいかと思います。ただ、業務の負担感に関しては、診療放射線技師は増加したとの回答でした。スタッフのワークエンゲージメントに配慮しながら、心理的安全性を担保した環境の構築が必要となります。
診療放射線技師として、個々のスキルアップによって、柔軟性と多様性を促進できると考えています。また、多様性を持つために、組織としての対応も必要不可欠です。
木村氏 製造業をはじめ一般企業も同じですが、時間短縮や事故を未然に防ぐという点から効率性を高めるためには、複数のタスクに対応できる人材の育成が鍵になるかもしれません。AIなどを活用することによって、活躍できる幅が広がりますね。ただ、効率性を高めると同時に安全性もしっかり確保しなければならず、他の産業以上に安全性が求められる医療では、単純に効率性を高めればいいということではないですね。
池田氏 おっしゃる通りでして、安全性と効率性のバランスをなかなか取りづらく、今までですと安全性を重視すると効率性が落ちるということもあります。そこを医療DXでうまくできれば、両方のバランスが取れるかもしれません。働き方改革は“医師の”というように見られていますが、“病院全体の”働き方改革につながっています。医師だけでなく、看護師の業務も、診療放射線技師がシェアしているため、看護師は患者さんを診る時間がこれまで以上に長くなっていたり、医師は他のデータを見る時間をより多く確保できるようになったりしています。その意味では、働き方改革によって、安全性がより高まっています。
ただ、われわれ診療放射線技師としては逆に仕事が増えているので、そこに対してDXでいかに安全性を担保するかという話になるのでしょう。内部で取り組み始めた例として、今は本当に情報過多になっており、いろんなシステムを開かなければなりません。複数ある情報を一つに集約しようという研究を行っています。
岡本氏 医療現場では患者さん情報の入力でも作業が重複していますよね。
池田氏 その通りです。例えば造影剤の副作用について、電子カルテと部門システムの両方に入力しなければならない。診療放射線技師として静脈確保をするようになったら、それに対する電子カルテも、我々が書くようになりました。業務が増えてはいるのですが、気付きもありました。検査時に個別の配慮を必要とする患者さんは少なくなく、静脈確保や問診などを通じて観察し、検査前に状況を把握できるようになりました。アナログ的なお話ですが、医療の安全性につながっているのではないでしょうか。
効率性と安全性を同時に高められるDXを推進するから、アナログ的なやり方を取り除くという事ではないと思います。もちろん無駄を省くことは必要ですが、デジタル、アナログ双方を活用しながら、医療の質と安全をしっかり守れる、人を中心とした体制が組織にあることが大切です。
診療放射線技師への医師・看護師からのタスク・シフト/シェアを通じて、診療放射線技師と医師・看護師とのコミュニケーションがとても高まりました。当院の診療放線医師42名、画像診断科の医師12名、看護師10名にアンケートを取ったのですが、それぞれ多くの方々がコミュニケーションの質が上がったと回答。看護師は67%に上りました。
松口氏 我々は、さまざまなデジタル化にかかわるシステムなどを開発しますが、そこに当たっては開発に携わる人のモチベーションが非常に重視されたりします。DXでデジタル化、AI化と言われつつも、結局のところ、それを進めることで人間同士のコミュニケーションをどう充実させるかという事になろうかと思います。タスク・シフト/シェアを通じて、コミュニケーションやモチベーションを上げていくというお話は、とても面白いですね。
池田氏 やはりヒューマンセンタードでデジタル化を考えないと、医療DXを推進することは厳しいのではないでしょうか。
また、医療DXの推進は重要なのですが、それを進める上で、セキュリティ強化も行わなければなりません。医療機器の中にはウイルス対策ソフトが入れられないものがあったり、医療機器そのものが10年、11年使っていたりするなど、サイバー攻撃を前提とした環境になっていない医療機関が多すぎますね。
木村氏 そもそも病院内でさまざまな機器が管理されず、ぐちゃぐちゃな状況にあり、その中の1つの機器に悪さをされても、誰も気づかないなんていうケースがあります。そうすると、原因を探し出すのが不可能です。こうした状況の病院は少なからずあり、非常に怖いですね。
松口氏 端末のソフトウェアバージョンアップによる脆弱性対策をすれば、ウイルス感染を回避できるものもあるのですが、なかなか医療現場のほうでタイミングが作れないなどのお話もよく聞きます。定期的なバージョンアップなどの大切さを啓蒙しなければならないと考えています。
池田氏 医療情報システムに強い人材育成が急務です。
岡本氏 多くの医療機関でITシステムの担当者が十分に確保できないと伺います。
アライドテレシスでは、ユーザーコミュニティとして「医療ユーザー会」を運営しており、インフラに限らず情報システム全般や、DX、働き方改革などをテーマにした情報交換会を展開しています。横のつながりを広げ、それぞれの自院が抱える問題解決につなげていただこうというのが趣旨です。ネットワークやシステムについての知識も深めていただけると思います。
参加料はかかりませんので、ご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。
▽本座談会のもととなったセミナーをアーカイブ配信中。下記HPよりお申込みのうえ、ご視聴いただけます
「働き方改革に向けたタスクシェアの実現と安全管理ガイドラインへの対応」
https://www.allied-telesis.co.jp/event/seminar/netrend-med_240510/
(アライドテレシスの医療機関に向けたソリューションをご紹介)
https://www.allied-telesis.co.jp/it-infra/industry/medical/
医療介護経営CBnewsマネジメント
【関連記事】