ベテラン医師と若手医師・医学生が侃々諤々
11日の都医セミナー
「きょうはぶっつけ本番、若手の医師や医学生にも、どんどん当てていきます。積極的に話してもらいますよ」―。東京都医師会(都医)の近藤太郎副会長が、セミナー冒頭にこう話すと、会場に集まった若手医師や医学生は緊張した面持ちに変わった。
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都医が11日(日)に開催したセミナー、「いい医師になろう! ~総合診療力を高め、真の『かかりつけ医』になるために~」は、一般によくある座学のセミナーとは、少し趣が違っていた。6月に竣工した都医の真新しい2階講堂は、都医理事などのベテラン医師と若手医師、医学生が一堂に会して熱気にあふれていた。
会場では、グループごとにベテラン医師、若手医師、医学生が、混合チームをつくってセミナーに臨んだ。第1部の「医局や医学部では学べない『医療制度』」では、テーブルごとに、「かかりつけ医」の意味や、これからの医療提供体制の中で、医師が果たしていく役割などを議論した。第2部の「明日から役立つ『臨床推論』」では、講師の設問に対して侃々諤々の議論をして、確定診断までのプロセスを学んだ。
■尾崎会長「優秀ではなくても、いい医師になってほしい」
セミナー開催に当たり、あいさつした都医の尾崎治夫会長は、若手医師や医学生を前に、自身が大学時代に部活のバスケットボールに熱中したことや、紆余曲折の末に内科を選んだ理由などを披露した。
その上で、「このようなセミナーやいろいろな機会を通じて、どの診療科で何をしたいのか、どのような医師になるのかをしっかり考えていただいて、優秀でなくてもいいので、いい医師になってほしい」と述べた。
続いて、このセミナーを後援した日本医師会(日医)の横倉義武会長は、1961年に確立された国民皆保険制度が今、財政が逼迫する中で、厳しい局面を迎えていると説明。財政当局が主導するのではなく、医療側が積極的にアクションを起こして、医療を取り巻く環境を変えていく必要があると述べた。
また、「かかりつけ医」について、「何でも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」という、日医と四病院団体協議会がまとめた定義を紹介した。
その上で、横倉会長が「どこに、このような医師がいるのか」と演台から下を見渡すと、会場から笑い声が上がる一幕もあったが、横倉会長はきりりと表情を引き締めると、「私どもは、高い目標を掲げて、それに向けて努力していくことが大事になる」と述べた。
■「日本の医療制度は世界が注目」、一方で危機感持つ必要ある
第1部は、パネルディスカッション形式。パネラーの一人、東大大学院教授の渋谷健司さんは、昨年6月に厚生労働省がまとめた「保健医療2035」を策定するための有識者懇談会で座長を務めた。渋谷さんは、将来のあるべき方向性を示す中で、「かかりつけ医」の重要性が盛り込まれたと強調。さらに、「国民皆保険が50年以上にわたり維持されている日本の医療制度は、世界が注目している」と指摘した。
もう一人のパネラーで、元厚労省医系技官で「みいクリニック代々木」(渋谷区)院長の宮田俊男さんは、11月に開業したばかりだ。宮田さんは「横倉会長が挙げていた、かかりつけ医の定義の中の、最新の医療情報を熟知するのは非常に難しいが、今は、いろいろなネットワークがあるので、それらを使っていくのもいいのではないか」とアイデアを紹介した。宮田さんは、日本医療政策機構の理事でもあることから、その立場として引き続き、政策提言や新たな取り組みをしていくとした。
会場の各テーブルの講師の一人として参加していた都医の島崎美奈子理事も発言し、「今、私が大きく感じているのは危機感。私たちが乗っている医療提供体制などが豪華客船だとすると、実は、タイタニック号かもしれない。私たちが抱いている、医療の環境や国の制度などに対する危機感をどうか、会場に集まっている先生たちに感じてほしい」と力を込めた。
同じく都医の目々澤肇理事は、医師会が医療課題にどのように取り組んでいるかなどを説明。また、研修医サポートプログラムや、医学生による社会や文化領域などについての活動を顕彰したり、助成金を提供したりしていることなどを紹介した。
第1部の総括では、日本医学会の髙久史麿会長が登壇し、「若手医師や医学生の皆さんは、チーム医療のリーダーになることが求められる。そこには当然、社会性が必要になってくる。チーム全員を引っ張っていくとまではいかなくても、少なくともチームのほかの人の意見をよく聞いて、患者さんの治療に当たってほしい」と期待を示した。
■「患者を直接、診察することが重要」
第2部では、独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)の徳田安春・総合診療顧問と、東京女子医大病院総合診療科で非常勤講師をしている佐藤寿彦さんが講師になり、会場に臨床推論のための設問を投げ掛け、テーブルごとで活発な議論になるよう促し、確定診断にまでつなげた。
徳田さんは、医学生の23歳女性の主訴が咳、発熱の症例で、既往歴などを説明した上で、本人が学校出席を希望した場合、許可していいかどうかを問い掛けた。徳田さんは、若手医師や医学生の総合診療力を高めるために全国の病院などの勉強会に出向き、実践形式の臨床推論の講義に慣れているだけに、百戦錬磨の雰囲気を醸し出していた。
もう一人の講師の佐藤さんは、57歳男性で、「手羽先を食べて、2日前からお腹がたまに痛くなる。軟便を認める」という主訴の症例を紹介。患者さんに対して、どのような問診から始めればいいかを参加者に聞いたりした。佐藤さんの症例を参加者が検討している間、徳田さんはマイクを片手に、それぞれのテーブルを回り、医学生などの質問に答えては、さらに慎重な熟考を促したり、会場の演壇の横に置かれたホワイトボードに参加者が発言した論点をまとめたりもしていた。
徳田さんは、会場との質疑応答の時間に参加者の一人とのやりとりの中で、「主訴に咳と書いても、どのような咳なのか伝わらないのがケースカンファレンス(臨床推論)の限界で、実際の患者さんを診れば、一瞬でインフルエンザと分かったりする」などと述べ、患者を直接、対面で診察する重要性を改めて強調した。
■近藤副会長「医師は謙虚でなくてはいけない」
セミナーの最後に、都医の近藤副会長は、「医師は謙虚でなくてはいけないということを忘れないでほしい。患者さんの正常範囲のバリエーションと病気との境目の見極めは、患者さんをできるだけ多く診察することで自信も付きますが、一方で間違いが起きているかもしれないということを肝に銘じていただきたい」と、若手医師、医学生にエールを送った。
近藤副会長はさらに、「医療は医師と患者の関係というが、医療機関の受付や看護師、臨床検査技師など、いろいろな職種がかかわっている。地域に出ると介護職やケアマネジャー、ボランティアもいる。地域とのつながりがあってこそ、地域で求められる総合診療医、もしくは求められる『かかりつけ医』となる。医療は医師一人でできるわけではない。このセミナーでの人のつながりも大事に、これから頑張ってほしい」と述べ、閉幕のあいさつとした。
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