弁天島で釣り糸を垂れながら
あの時、私はこう考えた(2)
■医療が萎縮すれば、困るのは患者や国民 寺野には、弁護士の角籐和久との共著、「医療は負けない!モンスターペイシェントとどう向き合うか」(医学評論社)がある。今、少しずつ増えている医師で弁護士について、医療者側弁護士なのか患者側弁護士なのかと便宜上、区別することがあるが、寺野はどちらの側にもくみせず、正しいと思えばどちらの側の立場も代弁するという。 この共著を出したのは、医療者を擁護するためだと思われがちだが、巻末には、このような言葉を記している。「一部の患者、家族が、余りに自己中心的になり、その主張を強引に貫くとき、他の多くの患者らに円滑な診療を受けられない事態を招き、また想像以上の困惑と恐怖心を与える結果となることを本書で知っていただけたと思う」と。 米国留学から帰国し、東大医学部第二内科で講師を務めた後、獨協医科大第二内科(現在の内科学)教授に就任。その後、獨協医科大病院長になり、管理者としてのキャリアも積み重ねた。同大病院長時代には身をもって、病院経営の難しさ、医療事故やモンスターペイシェント問題などに直面した。 これらの経験を通じて、一部のモンスターペイシェントにより被害を受けるのは、医療者という単純な構図を強調するのではなく、実質的に被害を受けるのは、ほかの多くの患者や国民だと説いている。 その意味で10月にスタートする医療事故調査制度(事故調)の運用には、不安を抱いている。寺野は、民主党に政権交代する前の自公政権下でまとまった、いわゆる「第二次試案」に猛烈に抗議し、パブリックコメントでも実名を出しながら反対意見を表明した。新制度に対しては、沈黙を貫いているが、これだけは、忘れてはいけないという。 事故調により医療が萎縮すれば、困るのは国民。その視点を失ってはいけない。事故調をつくる上で、刑法の業務上過失致死傷罪はもちろん、「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」という民法709条の不法行為も含めて、法律全体で議論しなくてはいけない。寺野の近著に「明快解説 医師のための法律と訴訟」(メジカルビュー社)がある。この中で寺野は、医師として最小限知っておくべき訴訟の基本を述べ、広い視点での制度策定を求めている。 事故調は、改正医療法公布から2年以内に医師法21条などとの関係を踏まえて見直すことになっている。制度が動きだし、修正が必要な場面では、医師の中で弁護士として最も長いキャリアを持つ寺野の出番を求める声も強まるだろう。ご意見番として再登板するタイミングは、遠くなさそうだ。
=敬称略=
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