薬局を譲渡したのは理想追求のため
M&Aのかたち・ケース1
「当初は逆のことを考えていた。ほかの調剤薬局を買収し、店舗の拡大を図ろうと」-。株式会社レジオン(静岡県吉田町)の村松宗社長(51)はこのように語り、静岡市や掛川市などで運営する薬局全5店舗を他社に売却した経緯を振り返った。資金も潤沢にあり、知り合いの開業医から新店舗開局の依頼もあったが、薬剤師の確保が思うようにいかず、真に地域に根差した薬局をつくるという理念を体現するためには、譲渡が最善の選択と考えた。M&Aは、診療所の医師や遠方からも処方せんを持って来てくれる患者、従業員らとの関係など、さまざまな部分で気を使う選択だが、村松社長は「大きな決断ではなかった」と言う。その真意を聞いた。【聞き手・丸山紀一朗】
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病院薬剤師として勤務を始めたのはちょうど、薬剤師が臨床の現場に出て病棟業務に取り組み始めた過渡期のころで、その後、外来化学療法が始まるなどという転機にかかわってきました。わたしはもともと糖尿病が専門です。薬局を開業したのは、懇意にしていただいていた糖尿病専門医から、一緒にやらないかと誘いを受けたのがきっかけです。病院薬剤師としてはやりたいことをやり切ったと感じていたので、新しい仕事をしてみたいと思ったのです。
病院時代、緩和やがん化学療法にかかわり、治験、勉強会の立ち上げなどいろいろな仕事をしていたので、これらの実績を生かし、レベルの高い薬局をつくろうと考えました。ある程度高いレベルの臨床的バックボーンがないと、「ここにあってよかった」と患者さんから思われるような、地域に根差した薬局にはなり得ません。実際、病院にいる時、例えば薬局に対して紹介状を書いても返事がなかったり、麻薬の処方せんを出しても受けてくれなかったりということが多く、不満がありました。
こういう背景から、薬局名の「レジオン」には、わたし自身が「Drugstore in Region」(地域の薬局)をつくっていくのだという決意を込めました。開業後、「これだけきちんと話を聞いてくれたり、丁寧に説明してくれたりする薬局は初めてだ」と患者さんから言われた時は、この理念に近づいていると感じられてうれしかったですね。今後も患者さんから選ばれる薬局であり続けるためには、薬剤師の質の高さがポイントになると思います。
そんな中、キャリアブレインのスタッフが村松社長と初めてコンタクトを取ったのは今年1月ごろ。村松社長の頭には当時、会社を譲渡するという選択肢は全くなかった。しかし、村松社長が自らの理念に従って、患者や地域住民、従業員、診療所の医師らすべてにとって最善の未来は何かと考えた時、そこには同じ理念で薬局運営に取り組んでいる他社と合流するという道があった。
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