広報で慢性期医療を変える
【病院広報アワード】固定概念からの脱却
【経営者部門】優秀賞
医療法人社団尽誠会野村病院(富山市)
理事長・グループCEO 野村祐介さん
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埼玉県の急性期病院で消化器内科の医師として働いていた野村さんに転機が訪れたのは2012年4月。祖父の突然の死去により、実家の野村病院の理事長に就任することになった。「野村病院で働くことにいずれなると思っていたが、正直に言うと当時は気が進まなかった」と野村さんは振り返る。
なぜなら、急性期病院の方が仕事のやりがいがあると思っていたからだ。また、慢性期病院には寝たきりで治る見込みのない患者が多いというイメージがあったし、医療界には「高度急性期>急性期>回復期>慢性期」というヒエラルキーのようなものがあると思っていたからだ。
「この考えは他のスタッフも同じかもしれない、それならこのような考えを覆せばいいのではないか」。野村さんは次第にこう考えるようになった。
理事長に就任した当初は、看護師が不足していたため同病院の全4病棟のうち1病棟を閉鎖せざるを得ない状況だった。また、医療の必要性が低く、どちらかというと介護が必要な患者が多く入院していた。
ただ、いきなり病院を大改革すれば、ただでさえ少ない看護師らがもっと離職してしまう可能性がある。
そこで野村さんが計画したのが、3つのステップで病院を改革することだ。12年からのステップ1で、まずは「平均的な病院」になることを目指し、16年からのステップ2では「慢性期で生き残る病院」、21年からのステップ3では「地域から、そして医療従事者から選ばれる病院」になることを目標に掲げた。
ステップ3の段階では、広報で慢性期医療を変えることを決めた。積極的にメディアに出たり、慢性期医療のイメージを変えるためにサイトを立ち上げて慢性期医療の重要性を発信したりしている。また、慢性期医療のイメージアップや改革のためにウェブサイトやSNS、YouTubeの管理者を野村さん自身が務めているほか、各種の講演や取材も積極的に受けている。
これらの取り組みが功を奏し、同病院の看護師と介護職の採用面接者数は22年度が約70人で、前年度に比べ155%増となった。また、広域から患者紹介があり、病棟稼働率は 90-95%前後で推移し、病院に活気が出ている。4病棟は今も維持できている。
同病院には先駆的な事例が多い。環境への取り組みとしてフードロス削減 BOXを富山県で初、国内の医療機関として初めて導入した。また、全国でも例を見ない取り組みとして産業保健領域においてオンライン診療を活用した企業健診の再検査を23年11月に開始。認知症コミュニケーションロボット「だいちゃん」を中部地方の病院や介護医療院で初めて取り入れた。
重視しているのは固定概念を壊すこと。「病院はこうあるべきだ」「今までどの病院もやっていないからやらなくていい」というのではなく、「どこもやっていないからやる」という考えを大切にしている。
「常に新しいことをしていかないと地域から、そして医療従事者から選ばれる病院になれない」-野村さんは危機感を持ちながら、慢性期医療の新しいカタチを模索し続ける。
医療介護経営CBnewsマネジメント
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