リフィル処方箋を医療機関はどう使うか
財務省の狙い、長期Do処方の効率化
1枚の処方箋を繰り返し使うことができるリフィル処方箋が2022年度診療報酬改定で導入され、4月からスタートしました。改定率決定の大臣合意の中で▲0.1%の医療費適正化効果を見込んだ財務省は、その着実な達成に向けたフォローアップの徹底を求めています。一方、医療機関側はどのような場面でリフィル処方箋を発行するのか、将来的にどのような姿になり得るのかを考えていきます。
※この記事は「薬局経営NAVI」とのタイアップ企画です。
【関連記事】
1.根拠規定は療担規則
リフィル処方箋は、「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(療担規則)に根拠規定が置かれました。
第20条「医師である保険医の診療の具体的方針は」の中で、1診察、2投薬に次ぐ「3処方箋の交付」の「イ 処方箋の使用期間は、交付の日を含めて4日以内とする。(以下略)」の次に「ロ」として、次のように位置付けられました。
「ロ イの規定にかかわらず、リフィル処方箋の2回目以降の使用期間は、直近の当該リフィル処方箋の使用による前号ヘの必要期間が終了する日の前後7日以内とする」というものです。
リフィル処方箋の内容はカッコ書きで示し、「保険医が診療に基づき、別に厚生労働大臣が定める医薬品以外の医薬品を処方する場合に限り、複数回(3回までに限る)の使用を認めた処方箋をいう」としました。
「3回までの使用を認めた処方箋」が「リフィル処方箋」ということです。ただし、リフィル処方箋で処方できるのは、「厚生労働大臣が定める医薬品以外の医薬品を処方する場合に限り」とされ、投薬期間の上限が定められている麻薬、向精神薬、薬価収載から1年以内の新医薬品と、湿布薬が除外されます。
麻薬と向精神薬の投薬期間上限は、14日分、30日分、90日分の3種類あり、新医薬品は、基本的に収載から1年以内は14日分までが上限です。
リフィル処方箋の使用期間は、1回目は交付日から4日以内ですが、2回目以降は、直近の投薬必要期間が終了する日の前後7日以内とされました。
図1 リフィル処方箋の根拠規定
出典:保険医療機関及び保険医療養担当規則の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第31号)から
2.処方箋料の要件見直しでインセンティブ
リフィル処方箋の導入に伴い、医科診療報酬点数で処方箋料の要件の見直しが行われました。
処方箋料は、基本が68点で、向精神薬を多剤投与した場合(抗不安薬や睡眠薬などを3種類以上など)は28点、7種類以上の内服薬の投薬または向精神薬を1年以上継続して長期投薬した場合は40点となっています。
これに対し、特定機能病院と一般病床が200床以上の地域医療支援病院、新たに設定された紹介受診重点医療機関などで紹介率の低い大病院(紹介率50%未満または逆紹介率30%未満、紹介率40%未満または逆紹介率20%未満)は、1処方で30日以上の投薬の場合、処方箋料68点、28点、40点を、それぞれ100分の40の算定とすることが処方箋料の要件になっています。
それだけでなく、初診料288点が214点に、再診時74点の外来診療料は55点にとの減点もあります。
この処方箋料の要件が見直されて、紹介率の低い大病院でも、リフィル処方箋を発行した場合に、使用回数3回以内のうちの1回分が29日以内であれば、100分の40の算定を適用しないこととされました。
リフィル処方箋の発行を促す直接的なインセンティブは、この処方箋料の要件見直しが唯一のものです。
3.リフィル処方箋への切り替えが見込まれる分割調剤
リフィル処方箋は、10年以上前から、厚生労働省を含めた政府内の検討会や審議会で、導入に向けた検討が進められていましたが、日本医師会の強い反対があり、代わるものとして、分割調剤の仕組みが採られてきました。
04年度改定で導入された長期投薬分割調剤、08年度改定で導入された後発医薬品分割調剤、そして16年度改定で導入された医師の分割指示の3類型があります。
長期投薬の場合は、14日分を超える投薬がある処方箋で、薬剤の保存が困難なため分割して調剤するもので、2回目以降の調剤基本料は1回5点となります。
後発医薬品の場合は、その患者にとって初めての後発医薬品となることから分割して調剤するもので、2回目の調剤基本料は5点、3回目以降は算定できません。
これらは、医師の指示は必要なく、薬剤師の判断で分割調剤を行えます。ただし、事後に薬剤師から医師への連絡は必要です。
一方、医師の分割指示は、患者の服薬管理が困難などの場合に、医師が、処方箋の備考欄に分割日数と分割回数を記載して指示するものです。ただし、分割の回数分だけ処方箋を出す必要があり、こうした手間もあって普及していないとされます。
リフィル処方箋の導入は、その対象外とされた薬剤を除いて、医師の分割指示に取って代わることができるものです。また、長期投薬分割調剤も、リフィル処方箋に切り替えることが可能とみられます。
4.リフィル処方箋、月2万5,000枚程度が切り替え可能
紹介率の低い大病院の30日以上投薬で処方箋料が100分の40算定となる回数は、社会医療診療行為別統計(6月審査分の全国レセプトデータ)で見ると、導入された16年度は2,002回で、処方箋料の全算定回数の0.0033%でした。
全国で、月に2,000回程度ですから、ごくわずかですが、処方箋料が4割の算定となっても長期投薬せざるを得ないケースはあるということです。
その後も、17年度2,251回、0.0035%、18年度2,408回、0.0037%と多少の増加はありますが、ほぼ同程度の状況が続きました。
しかし、19年度には8,694回、0.014%と、前年度から回数で3.6倍、構成割合は3.8倍へと一気に増加しました。新型コロナウイルス感染症は、まだ報告もされていなかった時期です。
コロナ禍となった20年度は、7,270回、0.014%となりました。前年度からの回数の減少は、患者の受診控えが大幅に起きたことによるものです。構成割合はほぼ前年度と同様でした。
受診患者数は、現在でもコロナ禍前に戻り切っていませんが、処方箋料算定回数全体の0.014%程度が、リフィル処方箋に移行していくことになると考えられます。移行することで、処方箋料の100分の40への減点を避けることができるからです。
一方、医師の分割指示による調剤は、導入された16年度の算定実績は3回だけでしたが、17年度には1万3,340回と一気に拡大し、調剤基本料全体の算定回数に対する割合は0.02%となりました。
ただ、18年度は5,566回、0.008%と落ち込み、19年度4,593回、0.007%、20年度4,175回、0.008%と、回数は減少傾向でした。分割回数分の処方箋を発行する手間の問題があるとされていました。
医師の分割指示は、30日を超える長期投薬で、患者の病状は安定しているが服薬管理が難しい場合に行うこととされているもので、リフィル処方箋の導入後も引き続き必要な措置となっています。
リフィル処方箋は分割指示と同様のものであるため、分割指示処方箋に代わってリフィル処方箋を発行することは可能と考えられます。リフィル処方箋であれば、医師は1枚の処方箋で対応することができます。
少なくとも、17年度の分割指示による調剤の算定回数1万3,000回余りのニーズはあり、リフィル処方箋の分割指示に比べての手軽さを思えば、それ以上のニーズがあるとも考えられます。
薬剤師の判断による長期投薬分割調剤も、医療機関と薬局との連携の中でリフィル処方箋に移行していくことは可能と考えられます。
長期投薬分割調剤の算定回数は、20年度が3,159回で、コロナ禍で長期投薬が拡大しましたが、19年度に比べて17回の増加にとどまっています。
以上をまとめると、6月審査分の回数の実績は、紹介率の低い大病院の30日以上投薬が8,000回程度、医師の分割指示調剤が1万3,000回余り、長期投薬分割調剤が3,000回余りで、合計2万5,000回程度となります。20年度の調剤基本料の算定回数合計5,313万回余りに対しては、0.05%とわずかです。
当面は、このあたりがリフィル処方箋として発行される可能性のある数値と考えられます。4月以降、動き出しているのは、処方箋料の減算を避けたい紹介率の低い大病院、そして、分割指示を行っていた医師と想像できます。発行状況は、散見される情報からも、全体から見ればごくわずかなものと言えるでしょう。
5.財務省の狙いは長期Do処方、医療費▲0.1%
22年度診療報酬改定率決定の大臣合意にリフィル処方箋の導入による医療費適正化効果▲0.1%を盛り込んだ財務省は、「再診の効率化による医療費適正化効果を着実に達成すべき」として、特に、長期にわたり処方内容に変更がない処方「長期Do処方」への対応が必要との考えを示しています。
また、リフィル処方箋に対する「患者の希望やニーズの充足を阻害する動きがないか」として、運用面を含めたフォローアップの徹底を求めています。
具体的には、患者の症状によってではなく、医療機関としてリフィル処方に対応しない方針を掲げている事例、処方箋のリフィル可欄に患者への特段の説明や同意がなく打ち消し線が入っている事例などを精査する必要があると指摘しています。
長期Do処方については、健康保険組合連合会の調査から、延べ患者数に対する長期Do処方患者の割合は年々増加傾向にあり、19年には40-64歳で12.1%、65歳以上では15.3%に上ること、それらの患者の疾患は両年齢階級とも高血圧症、糖尿病、高脂血症が上位3位を占めること、長期Do処方患者で月1回以上受診した患者数の割合は診療所では37.5%を占め、病院でも7.2%あることが示されました。
日本医療政策機構の調査では、リフィル処方箋導入に関する国民へのアンケートの結果、賛成32.2%とどちらかといえば賛成48.2%を合わせると80.4%で、賛成が8割を超えていたことを挙げています。
図2 財務省のリフィル処方箋活用に関する考え方
出典:財政制度等審議会・財政制度分科会の4月13日配布資料から
長期Do処方患者にリフィル処方箋が発行されれば、再診の回数が減少して効率化され、医療費適正化効果を期待できるという見込みです。
さらに、薬剤師が薬学的管理・指導を強化することで、患者にとって不必要なDo処方を見直したり、多剤・重複投薬や残薬の解消につながったりする可能性もあるとみています。
こうした財務省の狙い通りの動きが起きていくことは、すぐには想像できませんが、次回以降の診療報酬改定で、それに向けた対応を提案していくことは十分に考えられます。
長期Do処方患者への対策が動き出すようになれば、リフィル処方箋の発行に動き出す医療機関も増加していくことが予想できます。
財務省は、リフィル処方箋導入がもたらす長期的な医療費適正化効果の大きさに期待しているものとみられます。
医療介護経営CBnewsマネジメント
【関連記事】