最終話 理想の終末期医療を空間から支える
“医住同源”を本気で探るスウェーデンハウス
人生の最期をどこで迎えたいか-。人の数だけ、その思いはある。生まれ育った地域、自宅、病院…。その人が望む形に、いかに寄り添えるかが終末期医療の理想形だろう。スウェーデンハウスとのタイアップ記事「“医住同源”を本気で探るスウェーデンハウス」の最終話では、医師と住宅メーカー・スウェーデンハウスが協働し、この理想の形に近づこうと奔走する姿を追った。
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厚生労働省がまとめた2022年の人口動態調査によると、人の死亡場所の64.5%が病院で、自宅は17.4%。統計資料の残る1951年は自宅が8割を超え、病院は1割も満たなかった。昔と今で看取られる場所は逆転している。こうした現状でも、自宅で最期を迎えたいと考える人は少なくない。日本財団が2021年9月に公表した「人生の最期の迎え方に関する全国調査」では、「人生の最期をどこで迎えたいか」の問いに対して、約6割の人が自宅を選んだ。また3割が医療機関で、4%と少ないながらも介護施設と答える人もあった。その理由はさまざまだ。例えば、同じ「安心だから」という事であっても、自宅と医療機関・介護施設では、意味合いが異なる。自宅であれば「一番安心できる場所」という“安堵感”であり、医療機関、介護施設では専門家のケアが最期まで受けられるという、文字通りの“安心感”を求めている。最期を迎えたい場所は、まさに人の数だけある。
最期を迎えようとする人の思いに、医療はどう向き合えばいいのだろうか。模索する医師が多い中、富山県砺波市太田で内科・神経内科を標榜する「ものがたり診療所」所長の佐藤伸彦医師は、スウェーデンハウスと共に、そんな難題に挑んでいる。
その挑戦の舞台となるのが同地域にある「ものがたりの街」。同診療所や賃貸集合住宅からなる「医療ゾーン」、薬局のある「お薬ゾーン」と地域住民とのつながりを大切にする「ものがたり広場」・「農園ゾーン」の4つのエリアからなり、佐藤医師は、この街を運営する「一般社団法人ものがたりの街」の代表理事を務める。「住み慣れたこの地域で最後まで暮らしたいという、皆さんの思いを実現させるためのプラットフォームづくりを進めています」と話す。
■「住み慣れた」景色が広がる
佐藤医師が重要視するのは「住み慣れた」という点だ。「ものがたりの街」には、この点をいくつも具現化した光景が広がっている。
入り口を通ると、シンボルツリーのツバキの木が出迎える。その周辺にも多くの木々が植えられている。ものがたりの街のある砺波平野は、広大な田畑を挟んで家が点在する「散居村」と呼ばれる集落形態のある地として知られている。家の周りにさまざまな木々を植え、冬の季節風や吹雪、夏の日差しから住まう人を守る「屋敷林」があるということが、地域では当たり前の風景となっている。ものがたりの街にもあるこの風景は、地域の人々に自然と安心感を与えている。
敷地内は、シンボルツリーを中心に複数の建物が取り囲む。診療所や低層賃貸集合住宅など、スウェーデンハウスが建築した北欧風の建物が連なる中、和風の蔵が大きな存在感を示す。これも住み慣れた空間の演出の一つ。
米どころでもあるこの地域では、敷地内に建つ蔵に収穫した米を運び、日々の暮らしを営んできた。蔵のある風景は生活の一部だ。「地域の風景を作るには、30年はかかるとされていますから、新しい建物をただつくればいいというものではないんです。しかし、蔵の大規模な修繕の際に、壁のしっくいが全部はがれてしまうなど、再生するのは大変でしたね…」と笑顔で振り返る中、佐藤医師は、この蔵に新たな息も吹き込んだ。
再生した蔵では、ピアノを使ったコンサートやヨガ教室を開催するなど、地域の人たちの集う場に。子どもたちが勉強できる環境も整えている。蔵の隣には、多くの人が活躍できるようにと、手芸やパン作りといった1日限定のショップが開催できる環境を整えた。他にも、ランチやケーキを提供する施設や、農作物を栽培・収穫が楽しめる菜園などを用意している。タイプはさまざまだが、共通するテーマは地域の人々の交流だ。人が集い、交流することが、「住み慣れた」環境を保つための大事な要素となる。
3人に1人が65歳を超える同市。ものがたりの街には生まれながらの光景が広がっている。なぜ、ここまで「住み慣れた」という点を重視するのか。そこには長年、終末期医療に携わってきた佐藤医師の強い思いがある。「これまで多く方を看取ってきましたが、最期の時間をどう看ていくか、という点は、医師として本当に悩むところです。人にはいろいろな人生の物語がある。その物語を大切にし、その人が望む最期のかたちに寄り添ってきました」と振り返る。それを象徴するエピソードがある。とあるお年寄りの住まいに往診へ行くと、豪雪地帯を象徴するように、家の窓際にはたくさんの雪が積もり、その窓をたった一枚挟んだところに頭を置いて寝ている姿が珍しくなかったという。「その人は、その環境の中で最期を過ごすことを心から望んでいました。その人が生きてきた環境の持つ力が、最期を過ごすための大切な支えになるのです」と語る。
「ものがたりの街」は、木や建物、田畑が、有機的に結び付きながら終末期を過ごすためのプラットフォームを形成している。そして、この中には、佐藤医師が所長を務める診療所と、訪問看護ステーション、ホームヘルパーステーション、居宅介護支援センターの3事業所があり、地域の医療や介護を支えている。また、さまざまな理由でやむを得ず住み慣れた家から離れるケースもあるため、全9室の賃貸集合住宅も併設されている。
■病院の「安心感」と在宅の「自由」の両立が原点に
実は、このプラットフォームが実現するまでにも、佐藤医師自身のドラマがある。10年、終末期の患者に対して、病院が持つ安心感と在宅ならではの自由を両立したサービスを提供するため、診療所と16室のアパートのある「ものがたり診療所 (現:ものがたり診療所山王)」を開設。当時はサービス付き高齢者住宅などの制度もなく、手探り状態で運営を始めた。その後、さらなる高齢化の進展やさまざまな制度が変わる中で、この取り組みが「隔絶された空間というイメージがぬぐえないと感じるようになった」(佐藤医師)。ものがたり診療所のある場所はJR西日本の砺波駅の駅前。利便性は高いが、「住み慣れた」場をイメージするにはどうしても限界がある。そこで考えたのが終末期医療のプラットフォーム構想だ。
20年に「ものがたりの街」を開業し、理想の終末期医療実現に向けて、プラットフォームは構想から現実のものへと一歩を踏み出した。佐藤医師は「スウェーデンハウスが協力してくれなければ、実現は難しかった」と振り返る。
スウェーデンハウスとの出会いは、実は、佐藤医師が現:ものがたり診療所山王を開設した当時から、さらに10年以上前にさかのぼる。佐藤医師は、病院の安心感と在宅の自由を両立したサービスが提供できる低層賃貸アパートの建築を模索。複数の住宅メーカーに当たってみたものの、門前払いが続いた。住宅メーカーからすれば、賃貸アパートの運用はあくまで土地の有効活用策で、利回りが低い案件には興味がないためだ。30、40室規模の建築を勧めてきた企業もあったという。それでは佐藤医師が掲げる、理想の終末期医療ができない。ダメもとで、スウェーデンハウスに話を持ち込んだところ、当時の担当者が佐藤医師の考えに共鳴。設計図を描くなど、イメージ化が進んだ。
様々な事情から、この賃貸アパートは実現に至らなかったが、佐藤医師はこのときに作成された図面を大切に保管し続け、スウェーデンハウスの担当者と交わした理想の終末期医療のイメージも色あせることはなかった。
理想の姿にさらに近づきたい。機が熟した20年、迷うことなく佐藤医師はスウェーデンハウスの担当者に連絡した。スウェーデンハウスは、北海道石狩郡当別町で計700世帯からなる「スウェーデンヒルズ」を展開している。当時、担当者は高気密・高断熱の住宅で、寒冷地でも安心してのびのびと暮らす高齢のヒルズ住民たちを見ながら、ある疑問を感じていた。「住み慣れた場所を離れ、無機質な病院で最期の時を過ごすことは、果たして幸せなのだろうか」。
佐藤医師からの電話に、担当者がふと伝えたこんな疑問から、佐藤医師の覚悟は決まった。
スウェーデンハウスと一緒に、終末期医療のプラットフォームつくる-。最初の出会いから20数年の時を経て、佐藤医師とスウェーデンハウスの協業がようやく実現した。蔵以外はスウェーデンハウスが全て建築した。「景観を大きく変えることなく、最期の時間を過ごせるような空間を作ってほしい」と佐藤医師は担当者に求めた。
「スウェーデンハウスの建物はシンプルですが、とても重厚感があり、一つ一つにきちんとしたポリシーがある」と評価。最後の時を過ごす人にとって、賃貸集合住宅「ものがたりの郷」は、温かく、静かで、なんとなく落ち着く-といった感覚で利用者を包み込む。
「ファーストクラスの空間を提供できている」と自負する佐藤医師。「私たちは、さまざまな物語の中で生きており、それを次の世代に、どう残していくかが大切ではないでしょうか。ものがたりの街のような小さいコミュニティーが日本のあちこちにできれば、きっとよい社会になっていくでしょう。今後はそのような社会づくりのお手伝いをしていければと思っています」。佐藤医師の物語はまだまだ続く。
スウェーデンハウスが創りだす空間は、理想の終末期医療を通じてよりよい社会の実現を目指す医師にとって、大きな支えとなっている。
■スウェーデンハウスHP
https://www.swedenhouse.co.jp/
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