福島で安心して出産・育児ができる医療を目指して
ふくしま子ども・女性医療支援センターの挑戦
日本の周産期医療を巡る問題の1つに、産婦人科医の不足や地域偏在がある。福島県でも、特に東日本大震災をきっかけに産婦人科医も含め県内の医師の流出が相次ぎ、深刻な状況に陥った。そのような状況を打開するため、県の委託を受けて「ふくしま子ども・女性医療支援センター」が2016年4月に発足した。モットーは、女性の生涯にわたる健康をサポートすること。県の周産期医療の現状や、そこで働く魅力などを高橋俊文センター長に聞いた。
【関連記事】
―県の周産期医療の状況を教えてください。
福島県ではもともと周産期医療に携わる医師が全国平均と比べて少ない傾向がありました。東日本大震災後、産婦人科は県内の産科医だけで対応できない状況になったため日本産科婦人科学会から県内の基幹病院への医師の派遣が行われました。産婦人科同様、元々少なかった小児科に従事する医師も、震災後にやはり多くが県外に移り、小児科医師もさらに減少しました。
しかし、県が実施する「修学資金制度」や県内医療機関の人材確保などの取り組みなどが功を奏し、医師が少しずつ増えました。東日本大震災で減少した医師数が、今では震災以前の水準を超えるまでに回復しています。
ただ、全国的にみると人口10万人当たりの医師数は福島県がワースト5位以内で、まだ不足しています。産婦人科医も全国的に見て少ないですが、出生数も減少しているので県内の周産期医療は何とかバランスが取れている状況です。
―ふくしま子ども・女性医療支援センター(以下、センター)では、どのような活動をしているのでしょうか。
センターのミッションは、「福島県に住む女性が安心して子供を産み、育て、そして健康な一生を過ごすための医療支援を行う」ことです。思春期から妊娠の前段階、妊娠、出産、子育て、更年期・老年期まで、女性の生涯にわたる健康サポートを小児科、小児集中治療(PICU)、小児外科、産婦人科が連携して行っています。
当センターの非常勤医師がサポートして2017年に立ち上げたPICUでは、気管内挿管をしている小児などへの対応といった生命にかかわる救急と小児科の間のような医療を提供しています。さらに、小児外科は先天的な異常を持った赤ちゃんの外科的治療のスペシャリストです。産婦人科・小児科という一般的な周産期医療とは一線を画した、プロフェッショナルな医師を各所に配置しているのが特徴です。
▽ふくしま子ども・女性医療支援センター
https://www.fmu.ac.jp/home/fmccw/
―ほかに取り組んでいることはありますか。
地域医療支援や医師のリクルート、産婦人科医のスキルアップ支援を柱に、福島県立医科大学の学生教育や同大学病院への医療支援も行っています。
リクルートでは、小児科・PICU・小児外科・産婦人科のエキスパートを県外から招いて若手医師の指導をしてもらっています。リクルートにより、これまで8名の医師が福島県に移り住み、医療に携わっています。
■豊富な症例数
―高橋先生は山形県のご出身とお聞きしましたが、福島県の周産期医療に携わって感じたことや、そこで働くメリットは何ですか?
福島県は面積が広いので、医療の「広域性」が特徴です。また、福島県人には「来るもの拒まず」の気質があるようで、他所の人を排除せず受け入れてくれる風土があります。そのためなのかどうか分かりませんが、それほど遠くない関東地方から医師が流入する傾向があります。
また、福島県の人口は10月1日時点で約176.7万人と東北地方で宮城県に次いで多く、患者数も多いです。症例数に恵まれていて多くの臨床経験が積めるほか、初期研修を含め専門医の研修自体も過不足なく受けられるので、特に若手にはすごくいいエリアです。
センターは、昭和大学医学部から産婦人科の専攻医2人の毎年の受け入れをサポートしていて、医師の派遣で昭和大学と良好な関係を築けています。また、センターの教員はそれぞれの専門性に応じた職位が与えられ、診療と研究を行えます。センター内での活動は教員の独自性を重視しています。
■転入した医師に資金援助
県外からやってきた医師への資金援助の仕組みもあります。他の都道府県から移り住んで産科や小児科、麻酔科、救急科、総合診療科の診療に従事する医師に対し、県が研究資金として最大で300万円を貸与しています。それらの診療科に従事した期間が一定数(貸与が300万円の場合は3年)あれば、貸与の金額の返還は免除されます。福島県への移住を検討している医師は、これをぜひ活用してください。
▽福島県特定診療科医師研究資金貸与
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045d/tokutei-kenkyuushikin.html
―県の周産期医療に携わるに当たり、どんなスキルが求められますか。また、どのような医師に来てほしいですか。
どなたでも大歓迎です。ある分野のスキルが優れているとかは、あまり関係ありません。人見知りの人も気にすることはないと思います。福島県人はフレンドリーで優しいので、すぐに打ち解けると思います。また、福島県立医科大学は権威主義的なところがあまりなく、いい意味で大学っぽくないのですぐに馴染めるのではないでしょうか。
また、「福島でこういう医療をやりたい」といった志のようなものがなくても全く構いません。こちらに来てから、自分のやりたい医療や、やりがいを見つけられればいいのです。
―センターが発足して7年半余り経ちましたが、今後は何を目指しますか。
県東部の太平洋に面した浜通り地域では、「再生」に向けた国家プロジェクトが進められています。その一環として、今年4月に福島国際研究教育機構(F-REI、エフレイ)が誕生しました。これは、科学技術力・産業競争力の強化を牽引し、経済成長や国民生活の向上に貢献することを目指した研究教育機関です。東日本大震災からの復興の中心的な拠点ともなります。
エフレイがある浪江町を中心に今後は研究者やその家族らが集まってくるでしょう。そこにコミュニティーができて街が形成されれば、医療インフラも必要になります。当然、子どもや女性への医療ニーズも増えます。浜通り地域に住む人が安心して医療を受けられる体制づくりが求められてきますので、このプロジェクトにセンターも何かの形で貢献したいです。
―最後に、福島での医療提供を検討している人にメッセージをお願いします。
「福島県に移り住んだ後、そこにずっと住み続けるべきか、働き続けられるか」と、ためらっている人もいるでしょう。しかし、それは気にしなくてかまいません。福島県の医療に関わって経験をある程度積んだ後、他の都道府県の病院へステップアップすることも全く問題ありません。
福島に興味や関心があったり、女性や子どもへの医療支援に携わりたいと思っていたりする方、今の職場環境を変えたいなどと考えている方は、福島の地でチャレンジしてみませんか。
▽ドクターバンクで福島県のお仕事を探す方はこちらから
▽福島県地域医療支援センター
https://fmu-rmsc.jp/
▽ふくしま子ども・女性医療支援センター
https://www.fmu.ac.jp/home/fmccw/
▽福島県特定診療科医師研究資金貸与
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045d/tokutei-kenkyuushikin.html
医療介護経営CBnewsマネジメント
【関連記事】