特養が利用料滞納に苦慮、家族のトラブル影響も
終活協議会、保証サービスの活用探る
特別養護老人ホームでは、利用料滞納への対応に苦慮している。利用者が、重度の認知症の場合、その家族が支払いに関わることがあるが、利用者と家族間のトラブルに巻き込まれ、利用料が滞ることがあるためだ。中には、利用者が亡くなった後も、滞納分の支払いが続いているケースもあるといい、現場での疲弊が広がる。
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「利用料の滞納に関して、家族に内容証明を送ることは珍しくない」。こう話すのは、福岡県北九州市の特別養護老人ホーム「かざはな園」の事務長・石橋慶一郎氏。定員はショートステイ10人を合わせて計80人。ここで15年間、利用者へのサービスを提供している石橋氏は「滞納の問題は、1件解決しても、また別の滞納が発生しているのが実情」とため息をつく。年金などで利用料を支払うケースでのトラブルが多いという。
介護サービスは、要介護度が上がるにつれて利用料も上がる。ただ、自己負担が高額になったときに、限度額を超える分が払い戻される「高額介護サービス費」や介護保険負担限度額認定制度による居住費や食費の負担軽減などがある。こうした制度を踏まえ、利用者が受け取る年金額で介護サービスを受けられるため、利用者の年金口座から利用料が引き落とされれば、少なくとも継続的な滞納は抑えられる。特に、要介護度の高い人が多く入居する特別養護老人ホームの場合、利用者は認知症を患っていることも多い。利用者自らが年金収入を自由に使うことは難しく、年金口座から安定して利用料の引き落としができるはずだが、実際には、そうではなく、利用料の滞納が発生している。
なぜか-。特別養護老人ホームの入居者のお金の管理は、成年後見人が選定されていない限り、子などの家族が行うケースが多く、その管理の仕方が裏目に出ることも。「利用者のお金を管理している家族の資金繰りがうまくいかず、利用者の年金を充ててしまい、口座からの引き落としができなくなる」(石橋氏・写真)。滞納発生のきっかけを、こう明かす。
一度滞納が発生してしまうとなかなか解消できない。かざはな園の場合、家族に内容証明を何度も出し、分割で支払ってもらったり、中には、利用者が亡くなった後も、滞納分を支払っていたりするケースもある。そして、1件の滞納が解消しても、新たな滞納が発生するという。特別養護老人ホームにとって利用料の滞納は、施設を経営する上で、常に意識しなければならない問題だ。
サ高住などは入居の際には、保証人を必須とするなど利用料支払いのトラブルが起きた際に対応できる方法が少なからずある。ところが、特別養護老人ホームの場合、やむを得ない場合に利用を拒めるとする規定はあるものの、保証人の有無だけで、入居を断ることはできない。
利用者のお金を管理するはずの家族が、こうしたトラブルを引き起こす事例は残念ながら後を絶たない。財産の管理に着目すれば、認知症など判断能力が不十分な人に代わって、財産管理や契約の手続きなどをサポートする「成年後見制度」がある。しかし、この制度を活用するためには、家庭裁判所の手続きなどがあり、ハードルはそう低くはない。成年後見までいかなくても、利用者の財産を適切に管理できる仕組みがあれば、今発生している滞納が少しでも減るかもしれないとみる石橋氏。「高齢の一人世帯も増えており、このままの状態では、滞納のトラブルは今後増えていくのでは」と不安を募らせる。
■終活意識高まる、2万人が契約
利用料の滞納問題は、特別養護老人ホームに限ったものではなく、介護施設共通の話だ。また、医療機関でも治療費や入院費の滞納問題は後を絶たない。こうした介護・医療現場の問題を新たなサービス提供で解消しようとする取り組みをしているのが「一般社団法人 終活協議会」だ。身元保証や連帯保証、遺産整理など亡くなった後の事務までを終活協議会でフォローする「心託サービス」を提案している。
いわゆる“争続”を回避するため、生前元気なうちに終活をしようとする高齢者は増えている。“争続”以外にも、「遠方にいる子どもに迷惑を掛けたくない」「入院が必要になった時に身元を保証してくれる身内がいない」など終活を考えるきっかけはさまざま。心託サービスは、今後考えられる事を、自分が元気なうちにトラブルに発展しないように掛ける保険のようなもの。
プランは3つ。身元保証を中心とした「安心プラン」、葬儀や納骨、遺品整理など、死後の対応を中心とした「万全プラン」と、この2つを合わせた「完璧プラン」がある。利用者は、それぞれに合ったプランを選択し、一括して料金を支払う仕組み。その後、仮に施設の利用料などの滞納があれば連帯保証として清算も行われるため、滞納者に対して内容証明などを送るという対応からは解放される。
身内がいない場合の手術の同意をめぐるトラブルも防ぐことができるという。「契約時に、延命治療の希望有無などを本人から聞き取り、そのようなケースに直面したらその内容を病院や施設側に示し、本人の意思として伝えることもする。
終活には、さまざまな事が関係する。あらゆる相談に対応できるよう、全国各地の弁護士や税理士など専門家約1,500人とネットワークを構築。一人一人に専任のコンシェルジュが付き、会員は2万人に上る。終活協議会の高木純氏は「家族を思い、終活を考える人は増えている。さらに、高齢での一人世帯は、今後増えていくことが予想され、身元保証は大きな課題となる。今後を見据えたサービスを提供しながら、介護や医療業界と利用者・患者をつなげていきたい」と強調する。
一般社団法人 終活協議会
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