薬局の存在感徐々に、医療計画で求められる役割
在宅医療指標例に24時間対応薬局数など7項目追加
2024年度から始まる第8次医療計画の策定に向けた検討が進む中、薬局の存在感が徐々に増しています。医療計画作成指針に、薬剤師の確保策が新たに追加される方向です。また、在宅医療の体制構築指針では、現状把握のための指標例に、現行第7次計画の2項目から、新たに24時間対応薬局数や麻薬調剤、無菌調剤、小児対応など7項目が追加され、9項目に拡大します。
※この記事は「薬局経営NAVI」とのタイアップ企画です
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1.入退院時の医療機関との情報共有、連携体制に焦点
医療提供体制に関する具体的な対応である在宅医療の体制構築指針の見直しから見ていきます。
医療計画では、医療の提供体制として、がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患の5疾病、また、医療の確保に必要な事業として、救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児医療の5事業を設定し、それぞれの計画を策定しています。
さらに、この5疾病5事業と並んで、在宅医療が位置付けられ、在宅医療の体制構築指針により計画が策定されています。
現行第7次計画の在宅医療の体制構築指針では、在宅医療に対する薬局の役割として、日常の療養生活の支援の中で、訪問診療、訪問看護、訪問歯科診療と並んで、訪問薬剤管理指導が位置付けられています。
訪問薬剤管理指導の実態として、全国の実施薬局数とその算定回数を記載。その上で、「地域の薬局には、医薬品等の供給体制の確保に加え、医療機関等と連携して患者の服薬情報の一元的・継続的な把握とそれに基づく薬学的管理・指導を行うことや、入退院時における医療機関等との連携、夜間・休日等の調剤や電話相談への対応等の役割を果たすことが求められている」としています。
訪問診療や訪問看護、訪問歯科診療にも同様の記載があり、それぞれの現状を踏まえて、各都道府県が医療計画を策定し、訪問薬剤管理指導であれば、実施薬局数の目標値を設定して、その実現を目指すことを求めるものです。
また、別表で、現状を把握するための指標例を示しています。
ストラクチャーとして、訪問診療を実施している診療所・病院の数、在宅療養支援診療所・病院の数、また、訪問看護事業所数・従業員数、訪問歯科診療を実施している診療所・病院の数などがあり、その中に、「訪問薬剤管理指導を実施している薬局数」があります。
さらに、プロセスとして、訪問診療や訪問看護、訪問歯科診療などを受けた患者数があり、「訪問薬剤管理指導を受けた患者数」もあります。
これに対して、第8次計画では、在宅医療の体制構築指針の改定を検討したワーキンググループの意見のとりまとめにより、訪問診療以外の、訪問看護、訪問歯科診療、訪問薬剤管理指導などは、「在宅医療における各職種の関わり」の項目にまとめられます。
その中で、訪問薬剤管理指導については、「入退院時の医療機関等との情報共有をはじめ、関係機関との協力を通じて、薬局と在宅医療に係る他機関との連携体制を構築することは重要である」と記載されます。
第7次計画でも、「入退院時の医療機関等との連携」の記載はありますが、その位置付けは、「役割を果たすことが求められている」という程度にとどまっています。
一方、第8次計画では、「連携体制を構築することは重要である」とされ、より実効性のある体制づくりを都道府県に求めるものとなります。
都道府県に対しては、さらに具体的に、麻薬調剤や無菌調剤などの高度な薬学管理が可能な薬局の整備状況や実績について、把握・分析して、在宅医療に必要な医薬品などの提供体制を整備することも求めます。
体制構築に向けた現状把握のための指標例では、第7次計画の「訪問薬剤管理指導を実施している薬局数と受けた患者数」に加えて、第8次計画では以下の項目が追加されます。
・麻薬(持続注射療法を含む)の調剤と訪問薬剤管理指導を実施している薬局数と受けた患者数
・無菌製剤(TPN輸液を含む)の調剤と訪問薬剤管理指導を実施している薬局数と受けた患者数
・小児の訪問薬剤管理指導を実施している薬局数と受けた患者数
・24時間対応可能な薬局数
薬局数は、ストラクチャーに掲載され、7次計画の1項目から、8次計画では4項目追加されて5項目となります。
受けた患者数は、プロセスに掲載され、7次計画の1項目から、8次計画では3項目追加されて4項目となります。
指標例全体では、訪問薬剤管理指導に関する指標例は、7次計画の2項目から、8次計画では9項目に拡大していきます。
この指標例の項目の大幅拡大が、医療計画、特に在宅医療に関わる薬局・薬剤師の位置付けおよび役割の重要性についての認識の高まりを、端的に示すものです。
2.訪問薬剤管理指導の算定が2倍超、無菌製剤処理対応薬局は1割未満
では、指標例に掲げられる項目の現状はどうなっているでしょうか。
現行7次計画の指針(2014年データ)によると、訪問薬剤管理指導については、在宅患者訪問薬剤管理指導業務を実施している薬局数は、医療保険が3,598カ所で算定回数は約15万回/年、介護保険は1万1,020カ所(重複あり)で算定回数は約545万回/年となっており、「実施施設は年々増加しているが薬局全体では約2割程度」としています。
それらの直近19年の状況は、薬局の在宅患者訪問薬剤管理指導業務の算定回数は、医療保険が約38万回/年で14年時の2.5倍、介護保険は1,220万回/年で2.2倍となっています。実施している薬局数は未公表ですが、算定回数の状況からも、14年に比べて相当数の増加になっているとみられます。
新たに指標例となる項目では、麻薬調剤に対応可能な薬局は約8割、無菌製剤処理に対応可能な薬局は1割未満、24時間対応可能な薬局は約3割となっています。
ただ、それぞれについて都道府県によるばらつきがあります。
麻薬調剤に対応可能な薬局は、全国で約8割ですが、最も多い石川県は95%程度に達し、秋田県、富山県、長野県、鳥取県、山口県が9割を超えています。
一方、沖縄県が最も少なく6割未満、宮城県、群馬県、山梨県、島根県が7割程度です。
無菌製剤処理に対応可能な薬局は、全国で1割未満と少なく、最も多い石川県でも2割未満という状況です。
24時間対応が可能な薬局も、全国で約3割と少ない状況です。5割を超える都道府県はなく、最多の奈良県が5割弱、大阪府と長野県がそれに続きます。
沖縄県が1割強で最も少なく、次いで栃木県が2割弱となっています。
小児への在宅患者訪問薬剤管理指導料の算定回数は、年々増加を続けています。6月審査分で見ると、11年の800回程度が、19年には6倍の4,800回程度になりました。
3.臨床現場での研修の必要性求める強い意見も
薬局全体として見た場合には、取り組みがいまだ不十分として、実績や研修の積み重ねが求められている分野もあり、それらは第9次計画以降の課題となっていきます。
21年度から制度が開始された地域連携薬局は、その機能が、「入退院時の医療機関等との情報連携や、在宅医療等に地域の薬局と連携しながら一元的・継続的に対応できる薬局」とされたものであることから、厚生労働省が、在宅医療の体制構築指針の改定を検討したワーキンググループで、「医療計画上の記載を充実させる」ことを提案。日本薬剤師会の委員は、その実現を強く求めました。
しかし、日本医師会の委員が、地域連携薬局の認定件数に都道府県によるばらつきがあり、都市部に偏在しているなどとして、第8次医療計画に記載するのは時期尚早と反対しました。
そのため、ワーキンググループの意見のとりまとめでは、「地域連携薬局の在宅医療への貢献について、今後調査を進め、その結果を踏まえて取り組みを検討する」とし、先送りされました。
また、地域連携薬局の提案資料の中で、厚労省は、「地域連携薬局では24時間対応が可能な体制が整備され、ターミナルケアにも積極的に参加している」と説明しました。
このターミナルケアへの薬局の参加についても、日医の委員は、看取りの現場を知らずに薬局に就職した薬剤師が看取りも含めた在宅医療に関わるのは無理があるとして、「医療機関での研修が前提になる」と指摘。
さらに、薬剤師の人材育成の観点からも、「卒後に医療機関で幅広い分野の研修を積んで地域に出ていくことが重要」との意見もありました。
その結果、ワーキンググループの意見のとりまとめでは、「多様な病態の患者への対応やターミナルケアへの参画」について、「地域医療介護総合確保基金などを活用して、医療機関と連携して行われる研修や、カンファレンスへの参加を通じて、在宅医療に関わる薬剤師の資質向上を図る」と記載されました。
医師の側からの厳しい指摘ですが、医療機関での研修やカンファレンスへの参加は、薬局・薬剤師と医療機関との関係を深め、信頼を得ることにもつながる取り組みになります。
4.医療計画作成指針に薬剤師の確保策を追加
医療計画全体を見ていくための医療計画作成指針についても、第8次医療計画に向けた検討会で、議論が進められています。
その指針の「医療従事者の確保」の項目の中で、厚労省は、薬剤師について、「第7次計画では、薬剤師の資質向上についての記載があるが、薬剤師の確保に関して明確な記載がない」ことを指摘。
他の従事者と同様に、薬剤師の確保についても明確に記載し、特に病院の薬剤師不足を踏まえた薬剤師確保策の策定、また、地域医療介護総合確保基金による薬剤師就学資金貸与の積極的な活用などを都道府県に促すことを提案し、第8次医療計画で実現する方向となっています。
病院薬剤師を含め、薬剤師全体の存在感が増してきていることの証しと言えます。
医療介護経営CBnewsマネジメント
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