患者に合ったエビデンス、情報量多くまるで“砂金探し”
ウォルターズ・クルワーがオンラインセミナー
臨床意思決定⽀援システム「UpToDate®」の開発・販売などを⼿掛けるウォルターズ・クルワーは5日、CBホールディングスと共催でオンラインセミナーを開いた。テーマは「高次元の患者ケアを目指して~EBMとデジタルツールの役割~」。EBMを行う上で、重要なキーワードの1つである「根拠」だが、インターネットの普及から今や「エビデンス オーバーロード」なる言葉も。さまざまな医療情報との距離感が大切になっている時代に、どうやってデジタルツールと向き合えばいいのかを考えた。
【関連記事】
岡山県の倉敷中央病院・副院長の福岡敏雄氏は「多職種連携で活用される各種情報ツールのあり方」をテーマに講演した。
検索戦略の重要性について語る福岡氏
福岡氏は、インターネットの普及や豊富な情報源により、「エビデンスが多すぎる」と現状を指摘した。以前は研究結果が医療現場に届かない「エビデンス ギャップ」がある中、どうやって最新の情報を得るかが課題だったが、情報量の多い中、それぞれ患者に合った情報にたどり着く難しさを「砂金探し」と表現。EBMに取り組む中で、「今までのエビデンスピラミッドを少し変えなければいけない」と述べた。
また、多くの臨床研究が行われる中で、1つのRCT(ランダム化比較試験)だけを見ても全体は見えないとし、情報整理の重要性を訴えた。どこに必要な情報がありそうなのか。同氏は、研究(Studies)をベースに、システム(Systems)を頂点とした6Sモデルを例に説明=グラフ1=。上位にいくほど、情報は統合化、一般化されるため、コモンな疾患などは上位部分で見当が付く。反対に、まれな疾患などは詳細な情報が得られる研究までいかなければならないとした。「今取り組んでいるものが、どこのレベルに情報がありそうか」(福岡氏)、見当の付け方を説明した。
グラフ1
必要な情報を階層から考えることも大切だ(セミナー講演資料を基に作成)
砂金探しのように必要な情報にたどり着くため、検索戦略を磨くことも大切だという。福岡氏は、医療情報源について、「UpToDate」のような妥当性の高い情報に限られたものと、それ以外の2つに大別。情報の妥当性の高低などを問わずに情報が搭載されているウェブサイトについては、例えば、治療では「ランダム化比較試験」に絞るなど検索方法を磨いて情報の質を上げることの重要性を説いた。
■同じ情報も異なる役割の視点でより精緻化
同病院は、医療安全の確保という観点から、看護師や薬剤師、技師、事務担当者それぞれが職域を少し広げて、疑問点などを医師に伝える「Good Job」という取り組みを推進している。心理的安全性の高い文化の醸成を図ることを目的に行っており、この取り組みにより医療事故を防いだケースもある。
例えば、救急外来に重度呼吸困難で施設から搬送されてきた患者をウブレチドのコリン作動性クリーゼと診断、アトロピンを投与し、緊急気管挿管が避けられたケースでは、ウブレチドの副作用を示唆したのは薬剤師だったという。同病院では医療情報に関するデータベースを医師だけでなく、看護師や薬剤師も利用できるような体制を整えている。福岡氏は、「医師と薬剤師が同じ情報の上に立っていたからこそ、双方が問題意識を持ち、より精緻な判断ができた」と強調する。
EBMの4要素の1つである「根拠」=グラフ2=としては、最も妥当で、現場・状況に当てはまり、結果が明白なものが求められる。「エビデンス オーバーロード」と言われる中、福岡氏は、情報整備と検索戦略という視点を持ちながら情報ツールを考えることが、多職種連携では大切になるとした。
グラフ2
「エビデンス」EBMの中でも重要な要素の1つ(セミナー講演資料を基に作成)
■全文検索で医師の情報アップデートも
オンラインセミナーでは、同氏と群星沖縄臨床研修センター長の徳田安春氏の対談も行われ、EBMの重要性などについて意見を交わした。
この中で、徳田氏は情報のフロー化に言及。昔は知識を得るために、紙のジャーナルをコピーし、机の周りに置き、むさぼるように読むのが医師の勉強の仕方だったと振り返りながら、「今はキーワードを覚えておけば、情報が簡単に引き出せる時代」と指摘した。一方で、患者のクリニカルクエスチョンを解決するための検索では、医師の情報のアップデートがしづらいと課題をのぞかせた。
福岡氏は、特定の論文が大事というよりも、自分にとって役立つ、患者に生かすことができる情報の積み上げに価値があると、データベース活用の重要性を強調。「デジタル化で大切なのは全文検索ができるという点。検索を通じて、情報のアップデートができる」と語った。
徳田氏が「まさにDXの時代」と話すと、福岡氏は「若い人は慣れており、そこに僕たちも慣れることで、医学的なアドバイスにつなげればWINWINの関係になる」と述べた。
医療情報の獲得などについて意見を交わした福岡氏(左)と徳田氏
医療介護経営CBnewsマネジメント
【関連記事】