データヘルス改革で、医薬品情報(DI)業務が再び脚光
ウォルターズ・クルワー・ヘルスがセミナー
医薬品情報リソース「Lexicomp®(レキシコンプ)」の開発・販売などを手掛けるウォルターズ・クルワー・ヘルスは13日、病院薬剤師と医薬品情報(DI)をテーマにオンラインセミナーを開いた。厚生労働省は現在、全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大などデータヘルスの集中改革を推進。集まったビッグデータの利活用で、新薬開発競争に拍車が掛かる。それは同時に、医薬品情報の迅速な整理や伝達、活用の重要性がさらに高まることを意味する。DI業務を担う薬剤師は、どう対応すればいいのか。今後のDI業務のあるべき姿などを探った。
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パネルディスカッションではDI業務の現場での悩みなどを共有(写真は左上、時計回りに=倉敷中央病院の西田氏、浜松医科大学医学部附属病院の川上氏、群馬大学医学部附属病院の関崎氏、ウォルターズ・クルワー・ヘルスの藤堂氏、順天堂大学医学部附属浦安病院の藤盛氏)
セミナーのテーマは「ウィズコロナ時代における病院薬剤師と医薬品情報 ~データヘルス改革の観点から見るDI業務の変革~」。CBホールディングスが共催した。
■「Society 5.0」で個別化医療や先制医療が加速
浜松医科大学医学部附属病院薬剤部長・教授の川上純一氏は、「病院薬剤師の果たす役割の変化と医薬品情報業務」をテーマに基調講演を行った。この中で川上氏は、データヘルス改革により、新しい投薬ターゲットやバイオマーカーの同定、治験、臨床研究の迅速化が進むと指摘。高速・大容量通信規格「5G」などを活用した超スマート社会、いわゆる「Society 5.0」で、個別化医療や先制医療がさらに進むとの見通しを示した。
セミナー講演資料を基に作成
既に、さまざまな技術の発達が、新薬の開発につながっている。川上氏は、国内の臨床開発、申請段階にあるモダリティの現状について紹介。がんを例に、従来の低分子医薬は半分以下で、抗体医薬を中心に遺伝子細胞治療や細胞治療など新しいモダリティが、新薬開発に使われているとした。その上で、固形がんに対して開発中のモダリティの作用機序を紹介し、「従来の低分子医薬では狙うことのできなかった所をターゲットにした医薬品開発が可能になり、薬物治療を広げていく可能性を持っている」と強調した。
■バイオ医薬品は年々増加、重要性増すバイオシミラー
こうしたバイオ医薬品は2016年度で医薬品市場全体の14%を占めており、年々増加している。一方で、従来の低分子医薬に比べて、製造や管理でのコストがかかるという課題も。川上氏は「(バイオ医薬品などは)治療上の新たなバリューをもたらすが、創薬イノベーションを持続可能にするためには産業構造を変えないといけない」と、バイオシミラー活用の重要性を述べた。
また、有効性や安全性、費用対効果などを踏まえ医薬品を選択する、院内の投与指針「フォーミュラリー」の意義について、川上氏は「医師、薬剤師が共同して薬物治療を行う支援ツール」と説明。現在、22年度の診療報酬改定に向けて中央社会保険医療協議会で議論が行われているが、川上氏は、「直接、診療報酬点数で評価するということは、今のところないだろうが、経済性の視点も踏まえた処方を、どう進めていくのかということで重要になってくる」とフォーミュラリーへの関心を示した。
セミナー講演資料を基に作成
主なDI業務については、日本病院薬剤師会が策定した「医薬品情報業務の進め方2018」で、「医薬品情報の収集、専門的評価・整理・保管および加工」など12項目が挙げられている。セミナーでは、この項目を踏まえた形で、病院DI業務を担当する薬剤師が自院の取り組みなどを報告した。
セミナー講演資料を基に作成
■DI室の情報収集はインターネットが基本に
群馬大学医学部附属病院医薬品情報管理部門主任で治験薬管理責任者の関崎直人氏は、医薬品情報の収集を中心にDIの基本業務を紹介。同院のDI室への医師・病棟薬剤師からの質疑応答件数は20年で全体の7割に上る。「臨床で困っている、もしくはコアな問題点に対する質問が多く、かつ素早い回答が求められる」(関崎氏)内容が多いため、情報検索は、海外情報を含めてインターネットを基本にしている。MRからの情報収集については、20年は17年に比べ半減近くになったが、院内から「困ったという声は聞こえない」(同)と、情報収集の手段として、インターネットへの比重をより高めていることを明かした。関崎氏は「疾病・薬物療法ではLexicompなどを中心に利用している」と話した。
バイオシミラーの処方率増加に向けた取り組みも紹介した。同院の抗がん剤「インフリキシマブ」の現在の処方率は80%前後。処方を開始した16年1月は20%程度だったが、その後、先行品との使用ルールを決めたり、処方率の低い診療科に電話でルール順守の依頼をしたりしながら1年かけて「やっとの思い」(同)で、8割まで引き上げたという。
一方で、併存リスクについても述べた。例えば「インスリン」を検索すると、40近い薬剤が表示される。バイオシミラーを併存することでより多くなり、「対策しなければならない」と課題を指摘した。
セミナー講演資料を基に作成
■能動的な情報収集が医療安全に直結
順天堂大学医学部附属浦安病院薬剤科医薬品情報室係員の藤盛真衣氏は、医療品情報業務と医療安全対策両方の視点から、自院での実例を紹介。当時、新薬だった抗インフルエンザウイルス剤「ゾフルーザ」で、添付文書改訂前に院内で注意喚起ができたことを一例に挙げ、取り組みを説明した。藤盛氏は「製薬企業や厚労省からの情報にとどまらず、実際に受けた問い合わせを基に、情報の収集や加工、提供を能動的に行う」ことで、医療安全への対策につなげられたと強調した。
MRへの情報収集に関しても工夫している。同院の薬剤科では、基本情報の他に、開発の経緯や粉砕・一包化・簡易懸濁の可否、配合変化などをMRに記入してもらう独自のヒアリングシートを使って、情報を収集している。聴取項目のバラツキを防ぐとともに、他製品との比較もしやすくする狙いがある。聴取した内容は、薬剤採用時に薬剤科職員へ伝達され、病棟カンファレンスの場で病棟看護師に伝えられる、という流れだ。
セミナー講演資料を基に作成
新型コロナ前、同院はMRの訪問に対して、アポイントメントを不要にしていた。コロナで営業目的の訪問が禁止され、「メールや電話でのやりとりが難しい新薬のヒアリングができない」(藤盛氏)という支障が発生。同科でいち早くウェブ会議システムを導入したことで、MRへの面会やヒアリングを再開させることができ、通常に近い業務ができたという。
■院内の質疑応答録の一部を地域の薬剤師と共有
地域の薬剤師との連携も、DI業務の主な取り組みの1つだ。大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院薬剤部薬務・薬品情報室の西田麻以氏は、DI室で対応した質疑応答録の一部を地域の薬剤師向けに公開していると話した。質疑応答録は、同院薬剤部の薬剤師だけが閲覧できるクラウド型のデータベースに収録。その中から、地域の薬剤師に関係のありそうな内容かどうかなどを吟味し、情報を公開している。「問い合わせのあった薬剤師に、URLを送り、登録してもらう」(西田氏)。
セミナー講演資料を基に作成
また、情報検索の仕方などの勉強会も、地域の薬剤師向けに開いている。21年6月に行われた勉強会では、「幅広く活用できる基本的な検索方法」や「さまざまな医学文献データベース」、「臨床現場での医学文献検索の実例」などについて説明したという。
質疑応答録が搭載されているデータベースの開発は、臨床薬剤師との連携、支援の狙いがあった。以前はマイクロソフトの「Access」を使った質疑応答データベースを活用していたが、検索機能が不十分だったり、データ量に制限があったりするなど使い勝手が良くなかった。クラウド型にすることで、こうしたデメリットを解消した。
マイクロソフトのウェブ会議サービス「Teams」も取り入れ、自院の連携・支援につなげている。西田氏は「ToDoリストで作業や業務の進捗が確認できたり、チャット形式で発言などの履歴が残り、話の文脈を再度確認しながら作業ができたりする」と話す。
4人の講演者とウォルターズ・クルワー・ヘルスの藤堂正憲クリニカル・エフェクティブネス カントリーマネージャーが参加したパネルディスカッションも行われた。パネリストからは、自院で採用する薬剤が変わった場合に、それまでの薬剤をデータベースから除外するのかなどの質問が上がり、DI業務の現場で直面する悩みについて意見を交わした。
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