指導医確保と医療提供体制の充実を目指して
福島県地域医療支援センターの新たな試み
福島県は2011年、県内の医療提供体制の充実を図るため、福島県立医科大学との連携により福島県地域医療支援センターを開設しました。医師のキャリア形成支援や医学生への修学資金貸与をはじめ、地域における必要な医師数等の情報収集を行い、福島県立医科大学から各医療機関への医師の派遣調整、ドクターバンクによる就業あっせんなど、医師・医学生からの相談に対応しています。今年度からの新規事業化に伴い、7月から支援センターの専任コーディネーターとして副センター長に就任した中里和彦・福島県立医科大学教授に、福島県の取り組みについてお話を伺いました。
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中里和彦・福島県立医科大学教授(福島県地域医療支援センター 副センター長兼専任コーディネーター)
-専任コーディネーターの役割を教えてください。
効率的・効果的に、医師不足や地域偏在解消に向けた施策を実施していくことが、支援センターに求められています。東日本大震災で多くの医師が県外へ移動したことから、特に若手医師の養成と定着を図るために、震災前からあった修学資金貸与の枠を順次拡大して、将来、福島県の医療機関で勤務したい県内外の学生を支援する取り組みを、これまで拡充させてきました。
その一方で、新たな専門医制度によって、地域医療の現場で指導医が不足するという課題が生まれました。そのため、優秀な指導医を県外から招き、地域の医療機関に勤務してもらうことで、地域医療の供給体制の充実を図るとともに、若手の教育に力を入れたいと考えています。
支援センターは現在、福島県立医科大学の教授4名が、センター長と副センター長を兼務し、事務職員を合わせて計12名の体制になりました。その中で、県外の医師を招へいし、トータルコーディネートを行うことを目的に、専任コーディネーターというポジションを新たに設けました。
所属している循環器内科で、私は4年ほど医局長を務め、医局のまとめ役や求めに応じて関連病院へ誰を派遣するか決めていく仕事をしていました。全ての依頼に100%応えることはできないので失望されることもあり、難しさを肌で感じました。福島県全体を言えば、まずは学生に、県内の病院に残っていただくための取り組みが必要だと思いますが、その上で、支援センターとしては、地域の不均衡をなるべく解消できるような形で、県全体の医師配置を進められたらと考えています。
■他県や私立出身でもウエルカム。民間・公立問わずに希望する病院で指導医を
-具体的な確保の取り組みについてビジョンを聞かせてください。
福島県立医科大学に在籍している教授陣に情報提供の協力をお願いしています。福島県に興味を持つ人がいないか情報収集して、それに基づいてリクルートを行っていこうと考えています。県外から来る医師には、医科大学ではなく、若手が研修できる地域の基幹病院などに勤務いただく形を、主に想定しています。地域の基幹となる病院であれば、民間病院でも構いません。民間・公立問わずに指導医を置いて、地域の不均衡が解消できるようにしていくシステムが必要です。県外から来ていただく指導医が希望する地区や病院特性をなるべく妨げない方針です。
初年度の目標として、5名の指導医を県外から招きたいと考えています。福島県立医科大学の各科の教授に候補者がいないかアンケートをしたところ、8月末の一次締め切り時点で数名の候補者がいるという回答を得ました。福島県出身で、他県で医師をしているが、キャリアの後半は故郷に戻りたいといった人たちです。ここからがスタートで、その情報を基に、候補の方とこれから交渉したいと思っています。無反応ではなかったことがうれしいですね。
-福島県立医科大学は県でどのような位置付けでしょうか。
福島県立医科大学は、県に一つしかない医学部です。医療を提供する上で全方位外交にならざるを得ないのですが、同じ大学出身者が地域の医療現場に従事していることが多いため、大学同士の競争がなく、仲の良さに自信があります。初期研修の人には、多くの症例を経験できる市中病院が人気ですが、専門性を高める後期研修の、専攻医をいかに集めるかに注力しています。大学病院ならではの専門的な治療や研究を経験してほしいです。
県外から来て、ずっと福島に残ってくれている先生に聞くと、大学同士の派閥争いなどによるデメリットがないため、穏やかな良さがあると言われます。他県や私立大学出身でも、福島県立医科大学としてはウエルカムです。また、指導医が少ない分、若い医師から多くを求められますので、モチベーションも上がるのではないかと思います。
福島県立医科大学外観
医療職に限らず、大変なことがあっても「やってよかった」と思えることが、働く上での充足感として大事ではないでしょうか。今は、初期研修の施設を自分で能動的に選ばなければいけません。面接の結果などでマッチングできずに、第1希望に行けない人もいます。我々としては、彼らに選択してもらえる大学であり、病院であることを目指していかなければなりません。そのためには、たくさんの臨床が経験できることや、魅力的な指導ができる体制をつくることで、彼らが満足できる学びを得られるように、シームレスなやりがいを考えたいと思っています。
私自身は、父の転勤で幼少時は宮城県仙台市、中学・高校をいわき市で育ちましたが、当時、アレルギー性鼻炎がひどくて悩んだことがあり、耳鼻科医を志して福島県立医科大学に進みました。30年以上前になりますが、当時は共通一次試験で国公立は1校しか受けられませんでしたので、入学者は福島県内出身者が大変多い時代でした。今のような研修医制度もなかったので、大学を卒業すると出身大学の医局へ入るのが一般的でした。その後、受験制度が変わって7割近くが他県へ進んだ時期があったことから、修学資金貸与などの取り組みが始まったと聞いています。福島県唯一の医学部として、選ばれる存在でありたいですね。
-福島における地域連携の目指す姿はどのようなものでしょうか。
県特有の特色は、全国の都道府県で3番目に面積が広いことが挙げられます。都市部もあれば、人口密度の低い所もあって、地理的な多様さに医療の課題もあると思います。人口分布が偏っているため、医療を全域で均質に持っていくのが難しいところです。県内のどこに住んでも、差のない医療につなげられることが、地域医療の最終目的になります。
県外から優秀な指導医を招くことで、こうした地域医療の充実を図りながら、若手医師には豊かな経験に基づいた指導を受けていただくことで、相乗効果を上げていきます。この新規事業が、福島県の医療の未来へとつながることを期待しています。
福島医師Fターン支援ナビ(https://f-doctor.net/)
福島県地域医療支援センター(https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045d/rmsc.html)
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