限られた人員で入居者の安心守れ、IoTに糸口
“監視”ではない富士通の「見守りソリューション」
スタッフの業務負担を和らげながら、入居者の見守りをどう充実させるか―。
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高齢化がこれから一層進む岡山県の南西部で、現場レベルでの試みが始まっている。成否の鍵を握るのが、あらゆるものをインターネットにつなぐ「IoT」の活用だ。限られた人員で入居者に安全を―。現場と開発側の双方が手応えを感じ始めている。
あなぶき興産のグループ会社「あなぶきメディカルケア」が運営する住宅型の有料老人ホーム「アルファリビング倉敷駅前通り」(42室46人)があるのは、岡山県倉敷市のJR倉敷駅北口の線路沿いを5分ほど歩いた所。2012年11月に開設されると、16年4月には、線路を挟んだ駅の南口に「アルファリビング倉敷幸町」(35室35人)が開設された。
日常生活に支障のない人だけでなく、認知症の人や末期のがん患者など、「アルファリビング倉敷駅前通り」にはいろいろな人たちが入居している。
入居者の平均年齢は、開設時には82歳だったが、わずか5年ほどで86歳に上がった。要介護度も平均1以下から2.2に上昇した。
あなぶきメディカルケアで福山・倉敷を担当する伊藤洋範エリアマネージャーにとっては、利用者の安全を確保し、サービスを充実させることが最優先の課題だが、それによるスタッフへの負担増が避けられない。
高齢化と同時に少子化も進行する中、業務負担を和らげながら、入居者の見守りをどう充実させるかが大きな課題だ。
■圧倒的なマンパワー不足に「見守りソリューション」という選択肢
「アルファリビング倉敷駅前通り」では、日中には看護師1人・介護スタッフ5人体制で対応しているが、夜間には介護スタッフ2人のみ。現在は何とか対応できているが、これから先は分からない。
県によると、倉敷市がある「県南西部医療圏」(5市3町)では、65歳以上の高齢者が14年に19万人を超え、総人口に占める割合(高齢化率)は年々上昇している。地域の高齢化が進んで入居者の要介護度がますます上昇すれば、介護現場が近い将来、圧倒的な人手不足に陥りかねない。
限られたマンパワーで入居者の安全を最大限担保するにはどうすべきか―。伊藤氏は模索し始めた。
IoT の活用もその一つ。赤外線センサーで居室を24時間見守ったり、音を検知するとカメラが瞬時に作動して異常がないかを確認したりするシステムも試したが、入居者を監視しているようなイメージをぬぐえず採用を見送ってきた。そんな中で伊藤氏の目に留まったのが「FUJITSU IoT Solution UBIQUITOUSWARE 居住者の見守りソリューション」だ。
このシステムの最大の特徴は、入居者のプライバシーに配慮して、緊急時以外はカメラに頼らず「音」を使って見守りを提供すること。入居者が自分でボタンを押せない状況でも、大きな音など転倒の可能性が疑われる場合に、「居住者の見守りソリューション」が自動で異常を検知して、コールセンターにリモートでいつでも危険を知らせる。
「音」だけでなく「温湿度」や「人感」などのセンサーも搭載している。そのため、熱中症のリスクが高まったり、入居者の行動が一定時間観測されなかったりすると警告できる。
「アルファリビング倉敷駅前通り」と「アルファリビング倉敷幸町」であなぶきメディカルケアが行った実証実験では、「音」など3種類のセンサーや緊急の呼び出しボタンなどを搭載した端末「リモートケアベース」を居室やリビングルームに設置した。
・第1弾 10月16日―11月15日(富士通コールセンターによる見守り)
・第2弾 11月16日―12月15日(倉敷エリア、施設内でWEBブラウザによる見守り)
実証実験の第1弾では、緊急通報受信事業の分野で30年以上の実績がある「富士通コールセンター」が、入居者の生活気配などの見守りを行った。第2弾では、「アルファリビング倉敷駅前通り」の控室でパソコンを使って入居者の様子を見守った。
■実験開始直後に居室の異常音を検知、迅速に対応
真価はすぐに発揮された。実証実験の開始直後には、「アルファリビング倉敷幸町」で居室の異常音を夜間に検知した。リモートケアベースのカメラですぐ撮影すると、足元が不安定で転倒リスクが高いと事前に把握していた入居者が転んでいるのを確認できた。その後、近隣の病院にすぐ救急搬送し、今では普段通りの生活を送れるまでに回復した。
転倒時の異常音を検知した際、最初に気付いたのは、入居者がいた「アルファリビング倉敷幸町」ではなく「アルファリビング倉敷駅前通り」の控室にいた夜勤の介護スタッフだった。「巡回と巡回のちょうど合間だったので、今回実証実験を行っていなかったら、入居者は2時間近くずっと暗闇で助けを求めていたかもしれません。すぐに駆け付けることができてよかった」。
今回のケースでは、入居者が頭部を打っていただけに、大幅に発見が遅れていたらもっと深刻な事態になっていた可能性があると伊藤氏も感じている。
転倒リスクの高い入居者がいるから巡回のペースを3時間置きから2時間置きに変更したくても、現在の人員では簡単ではない。実証実験を通じてあなぶきメディカルケアでは、「居住者の見守りソリューション」が、入居者の安全・安心につながるだけでなく、夜勤スタッフの負担軽減につなげることができたと評価している。
「居住者の見守りソリューション」の「人感」センサーで、入居者の動きが活発な時間帯が分かることも発見できた。高齢者住宅事業を統括するあなぶきメディカルケアリビング事業部の小夫直孝部長は、転倒を防ぐにはどの時間帯に巡回すれば有効かを見極めるのに役立てられると感じている。
■現場、開発陣の双方が実証実験に手応え
今回の実証実験に現場と開発側の双方が手応えを感じている。「居住者の見守りソリューション」の開発に携わった富士通の相原蔵人シニアマネージャーは、あなぶきメディカルケアでの実証実験が最終的な商品設計に大いに役立ったと話す。
「インターネットと人やモノをつなげるIoTで、空間や人の状況を遠隔で把握できるようにしたいと私たちは考えてきました。今回の実証実験では、コールセンターを使わずに、施設内や、隣接した施設の連携でどれだけ見守りに対応できるかが課題でした。手応えのある結果です」。
カメラに頼らない「居住者の見守りソリューション」が入居の決め手になるケースもあるといい、あなぶきメディカルケアでは、本格導入を視野に引き続き実証を進める。
運営施設のサービスを一層充実させて、いずれは地域包括ケアシステムの中心的な存在になるのがあなぶきメディカルケアの目標だ。その一環で、周辺の住宅にリモートケアベースを設置して、緊急時対応などのサービスを円滑に提供するという構想も描いている。
小夫氏は、「このソリューションを活用して、在宅介護に必要なサービスを生み出して地域に届けたい」と意欲的だ。
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