他職種からの刺激がイノベーションにつながる
多摩大学大学院MBAコース
平日の午後6時半。JR品川駅港南口から、駅直結の連絡通路を歩いて1分もかからない品川インターシティフロント5階のフロアの一室で、医療機関や介護施設のほか、一般企業での仕事を終えた10人弱の社会人の院生たちが、業界が抱える課題などについて意見を交わしていた。
そこでは、多摩大学大学院の社会人向け経営学修士号(MBA)コースの授業が行われていた。2年間のMBAコースは、少人数クラス制を採用。MBA取得だけでなく、MBAコースをベースに専門性の高い知識を習得できるカリキュラムになっている。入学期は4月と9月の年2回だ。このMBAコースの売りの一つは、問題意識を持った異業種・他職種の人が、机を挟んで侃々諤々の議論を行い、新たな気付きを得る場になっていることだ。
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この日は、4月に入学した院生を中心に、MBAコース2年目の院生がこれからまとめる修士論文・実践知論文の基本コンセプトを紹介した上で皆から意見を聞き、内容をブラッシュアップしようという試みをしていた。「医療専門職が地域に出るにはどのような仕組みが必要か」「論文でアンケートを実施しているが、サンプル数が少ないのではないか」など、遠慮のない意見が相次いだ。
授業はその後、一人の院生による「今、自分が身を置いている介護業界の抱える課題の一つである高い離職率について」のプレゼンテーションに移った。それを基に、院生がそれぞれの意見を出し合い、課題解決につながるような糸口を導こうとしていた。さらに、ほかの院生からは、離職率を低下させた後、職員にはどのようなキャリアパスを構築できると提示すればいいのかなどという新たな課題も提起された。
授業は3時間。しかし、授業が終わっても、院生たちはすぐには帰らない。授業中に興味深いアイデアを紹介した院生の机に駆け寄り、詳細を聞いたりして、自身の胸に落ちるまで話を続けていた。
多摩大学大学院では、このような日常が2年間繰り返される。MBAコースのカリキュラムは多彩で、自分の関心のある分野を徹底的に突き詰めることもできるが、知性も磨ける独自のリベラルアーツ講座を選択し、視野を広げることも可能だ。
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■「国など“上”からの改革は限界、現場のイノベーションが必要」
MBAコースで教鞭を執る講師陣の一人に、真野俊樹教授がいる。真野教授は、名古屋大学医学部を卒業、臨床医などとしてキャリアを積んだ後、米コーネル大学医学部研究員を経て、英国立レスター大学でMBAを取得。国の社会保障制度にも明るく、医療・介護業界に対して、マネジメントやイノベーションの視点で改革を提案している。
真野教授は、今年9月から多摩大学大学院MBAコースの受講を考えている人に対して、このようなメッセージを送る。
「イノベーションを起こすには、医療・介護業界の枠の中で考えるのではなく、異業種や他職種の人と議論をして、外部の人が何を考えているかを知る必要があります。ここで刺激を受けて、気付きを見つけるのが大事です。厚生労働省などは超高齢社会に向け、社会保障制度の見直しをしています。しかし、国など“上”からの改革には限界があります。ここに集まっている院生は医療・介護従事者だったり、周辺企業の経営者だったり、従業員だったりしますので、少しずつですが斬新なアイデアを出し合い、大きなうねりにしていければいいなと思っています」
同大学大学院がMBAコースを開設して20年余り。すでに750人を超える人材が輩出している。真野教授が中心となり指導している医療・介護系のヘルスケアフィールドは、直接的に医療・介護業界に関与していない一般の人にも門戸を開いている。その一人が谷孝祐さんだ。谷さんは一昨年9月に入学し、今年が最終年度。現在、修士論文を仕上げる最終段階に入っている。谷さんは、同大学大学院のMBAコースのメリットの一つとして、外部から招聘する講師を挙げた。講師には、アカデミアだけではなく、実際に制度をつくっている行政担当者を招いたりしているからだ。
谷さんは「真野先生の講義で、新聞や雑誌などから得られる情報以上のことが分かりました。社会保障制度などを担当している厚労省などの、制度を実際につくっている『リアル』な人がゲスト講師で来たりして、実際に何が起きているのかが見えてきました。金融やIT系の講義でも、表面的なことだけでなく、事実の背景などが分かったりしました」と話す。
谷さんには問題意識として、日本人の 健康意識がもっと高まればいいのではないかという考えがある。谷さんは、「病気になってから病院に行くのではなく、未病なり健康増進なり、そういった方向に意識がいくようにしたいという大きなテーマがあります。私は大学で経営学を専攻していたので、そのテーマを、経営にひも付けるなら、やはり身をすり減らして働いて稼ぐのは、健康ではなくて病気に向かいやすくなります。私が目指しているのはその逆で、自分にストレスをなるべく掛けずに、かつ稼げるようなメンタリティーをどうしたらつくれるかです。心理学的なプログラムを組んで実践し、効果検証したものを論文にまとめようと思っています」と言う。
■今年4月入学の院生の思いはそれぞれ
湘南鎌倉総合病院・事務部次長
山下尚子さん
「ここに来たのは20年前の自分と、これから20年後の自分を想像してみたときに、変化をしたかったからです。もちろんMBAを取得することも目的の一つです。病院という世界は、医師や看護師など専門職ばかりです。その中で、事務職として働いてきたのですが、身の置き場をはっきりさせるためにMBAを取得しようと考えています。病院の医師たちは応援してくれているので、プレッシャーにはなっていますが、頑張ろうと思っています。そして、私は事務職として病院の医療を、地域や社会によりスムーズにつなぎたいという思いがあるので、ここで勉強して実現させたいです」
済生会神奈川県病院・地域医療福祉センター医療福祉相談室長(ソーシャルワーカー)
鎌村誠司さん
「ソーシャルワーカーとして勤務しているので、直接、経営に関する仕事はしていません。私がここに来たのは、経営の視点やマーケティングの発想などを習得したいと思ったからです。経営学は『問題解決の学問』だと聞いたことがあり、もともと興味がありました。多摩大学大学院に入学して3カ月が経ちますが、ビジョンやメッセージの打ち出し方などを勉強しています。今の職場では、地域医療福祉センターに所属しています。ここで多くを学んで、神奈川県病院を地域住民が自由に集える場にしたいです」
社会福祉法人合掌苑・営業統括部ブランディング推進室長
木村繁樹さん
「私は介護の業界にいますが、ここには、医療・介護業界以外の人がいて、異業種との交流ができています。気付きはとても多いです。履修科目は、新たなチャレンジをしようと介護と関係ない分野を、あえて選びました。まったく関係ないと思いながら勉強していると、難解なことにも出くわしますが、今後、いろいろなことにつながっていくのではないのかなと考えています。MBAの取得を目指すことで経営をしっかり学び、介護業界に経営という視点を広めて、日本の介護業界の発展に貢献したいと思っています」
株式会社ティップネス・取締役執行役員
小宮克巳さん
「正直なところ、MBA取得が目的ではありません。社員として働いた会社で2年前に今のポジションに就きました。これまで事業を立案し、実行してきた経験はありましたが、経営となるとまったく違います。ものすごく不安になりました。ここでは職務を遂行するために必要な知識を得て、理論補完しようと思っています。新たな人的なネットワークも得ています。ここにはMBAを目指している人や、ここで学んで起業をしようとしている人もいるので、とても刺激的です」
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