M3ナースサポートが給料付きで訪看養成するワケ
「夜間・休日“ぎりぎり”の経営助けたい」
「夜間や休日の人員配置などで“ぎりぎり”の経営を続ける訪問看護ステーションを支援するために、『看護クラーク』を養成しようと考えました。なぜ、『看護クラーク』が必要かというと、医療現場は医師、看護師が主体である一方、在宅現場は介護主体。在宅は、生活だからです。しかし、それだけでは足りません。両者をうまく協調させる人材が必要で、それを実現するのが『看護クラーク』だと思うのです」―。
医療従事者向けに多様なサービスを提供するエムスリーのグループ会社「エムスリーナースサポート」(M3NS、東京都中央区)の吉田豊美代表取締役は、こう話す。
M3NSは、訪問看護などに従事する看護師を養成する研修プログラムを開講した。3カ月の研修プログラムを受講している間の給与は原則的に保証し、安心してステーションの経営ノウハウを習得することができる。M3NSでは、訪問看護ステーションなどを経営する看護師を「看護クラーク」と名付け、この研修プログラムで養成する。
この研修プログラムを説明するセミナーなどの詳細は、ここ(=クリック=)。
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「研修をしながら給与がもらえるのはなぜなのか」。このような疑問を持つ人もいるだろうが、そのカラクリは、研修プログラムを受講する看護師はM3NSの社員、つまり「企業看護師」になる。
M3NSは、新規に訪問看護ステーションを開設するほか、すでにあるステーションをグループ化し、資金面で支援。グループになったステーションに研修プログラムを受講した看護師がサポートに入り、地域で適切な看護を提供できるよう手伝う仕組みだ。
訪問看護ステーションの経営ノウハウの継承は従来、OJTが中心で、本格的な研修機関がない。そこで、M3NSは、独自に研修プログラムを開発。将来、企業看護師を経て実力を付けた後、ステーションや在宅ホスピスを経営したいと考えている看護師や、そこで働いてみたい看護師の教育をする。
M3NSでは、これまで病院や診療所に勤務して、訪問看護に興味を持っている看護師を研修プログラムの受講対象としている。急性期、慢性期を問わず病棟経験は3年超程度を想定している。
この研修プログラムに応募する条件に年齢制限はない。研修プログラムでは、「看護クラーク」を養成するだけでなく、出産・育児、子育てなどの理由で現場を離れていた「潜在」看護師が、現場に復帰して訪問看護ステーションなどで働くための教育もする。
■M3NS吉田代表「病院への逆紹介ゼロの理念は今も変わらない」
吉田代表は、急性期病院や医療法人の訪問看護ステーションでの勤務を経て、2005年に独立。名古屋市に、当時としては珍しい24時間365日対応するステーションを開設した。その後、08年には、入居者を末期がん患者に限定した高齢者住宅「ナーシングホームJAPAN」を設立。そのころからの、「地域から病院への逆紹介ゼロを目指す」という理念は、今もまったく揺るぎがない。
M3NSの吉田代表にインタビューした。
患者さんの多くが、自宅のベッドや布団などから、毎日見ている窓の外の景色を眺めたり、自分が付けた壁のシミなどを見たりするなどしながら、最期を迎えたいと思っています。これは看護を長年やって、自宅で患者さんを看取ってきて感じることです。
患者さんのこのような気持ちを大事にしようと、訪問看護ステーションを経営している看護師さんは全国にたくさんいると思います。しかし、現実はそれほど甘くはありません。常勤で看護師が3人いるステーションでも、夜間や休日の対応には、ぎりぎりの状態だと思います。ステーションを開設して、1年、2年が経つうちに疲れ切って、辞めてしまいます。そこで求人をしても、夜間や休日の勤務がつらいという理由などで、なかなか人は集まりません。
そこで、M3NSが厳しい経営状態のステーションをバックアップしようと考えているのです。プログラムを受講した看護師さんには、その住んでいる地域でM3NSが新規に開設するステーションに勤務してもらうほか、地域に密着して頑張っているステーションに、看護師が応援に行きます。夜間・休日ネットワークとして、看護クラークセンターを設置することも視野に入れています。
これまで看護師の仕事をしていると、慣性の法則ではないですが、訪問看護ステーションの仕事は、昼間の訪問をこなした看護師が夜間や休日も患者さん宅に自ら行かないと、訪問看護ではないという固定観念に縛られてしまったりします。
看護師には女性が多く、人生のさまざまなステージで、結婚し、育児や子育てを優先する時期があり、それぞれ自分の人生設計があります。その中では、夜間や休日の対応がネックになって、訪問看護を断念するケースが少なくありません。
患者さんや家族との信頼が構築されてこそ、訪問看護は成り立ちます。しかし、これからの超高齢社会に向け、「看取り難民」が大量に出るともいわれています。訪問看護でも役割分担が重要で、M3NSが地域のステーションの夜間や休日の業務を肩代わりすることなどで、貢献することができると思っています。地域からの「逆紹介ゼロ」を目指していきます。
私たちの看護クラークは、高齢者住宅も活躍の場になると思っています。夕方以降、18時から朝まで、生活音がなくなり、高齢者の方の不定愁訴が出てくる時間帯は、施設の人員が少なくなるので、そのようなところで、看護クラークが役に立つこともあるでしょう。
ここの研修プログラムを受講して、M3NSのステーションで働いてほしいのは、与えられた仕事をこなす人というより、自分から仕事を見つけて動ける人です。私もそんな看護師で、人から言われたことをやるのは苦手なタイプでした。それが自立した働き方です。その積み重ねで、生き方も変わり、死生観も変わると思うのです。
3カ月の研修プログラムは、1カ月目が10講座単位制の座学で、2カ月目がステーションのOJT、3カ月目がマネジメント学や経営・運営ノウハウの習得などとなっています。M3NSの看護クラークのスローガンは、「看護がベッドサイドケア中心の時代は終わり、地域を支える看護の在り方を一緒に考える」です。
M3NSの看護クラークは、自分の働きたい形を考えて、働いてほしいと思っています。自分なりのビジョンや看護観があって、それを達成するために努力をする。ここで仲間になった看護クラーク同士でチームをつくるのもいいかもしれません。自らの人生、働き方に対して、多様な考え方を持っている人に、研修プログラムを受講してほしいです。
医療介護経営CBnewsマネジメント
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