介護人材確保へ「理念の確立こそ不可欠」
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「やっと来てくれましたね。でもこれで辞めるから」と辞表を突き付けた人もいました。
「こんなに人が辞めて…。会社はどうなるんですか?」と不安をぶつける人もいました。
「社員の考えや思いをもっと聞くべきです」と怒る人もいました。
でも、最も多かったのは、
「社長、もっと店舗に来てください。現場を見てください!」という声でした。 一方、私が伝えたのは、「あと1年は辞めてほしくない。1年かけて改善するから」というお願いだけです。 ■対策を講じる前に、経営者としての愛情を示す お詫び行脚の後、私がやったことは、とにかく、きちんと現場に出て職員と語り、職員の働き方を見ることでした。それも、いきなり行くのではなく、ちゃんとスケジュールを伝えてから出掛けました。この“巡礼”を半年ほど続けました。 “巡礼”で私が伝えたかったことは、ただ一つ。経営者としての愛情です。 もちろん、愛情を伝えるだけではないですよ。職員全員からヒアリングをした上で、法人としての理念を構築しました。さらに負担を軽減するため、業務の役割分担を細かく見直しもしましたし、店舗ごとにばらばらだった書類の規格も統一しました。 ただ、こうした対策を細かく進めていく作業は、信頼する別の役員に任せました。離職率が7割に達した時、「辞める!」と言って対応を迫った、あの役員です。 私がやったことは、この実務を順調に推し進めるための地ならしでした。どんなに優れた制度を導入しようとしても、そこで働く人が反発してはうまくいくはずがありませんから。 幸い、この対応が功を奏し、離職率は年々下がりました。今では10%程度にまで下がっています。新卒の採用も順調です。数年前、定期募集を実施した時には10人ほどの定員に対し、約2000人の応募があったりもしました。 ■毎年、富士山に登り続ける理由 今、私は既に述べたやり方とは別の方法で経営者としての愛情を伝える機会を設けています。毎年、4月に入社してきた社員に社内イベントを企画してもらっているのです。 具体的には、社員が夏の富士山に登るイベントの企画と運営を任せています。富士登山となると20時間は一緒に行動しなければなりません。会社で面談したり、その後に飲みに行ったりしても、そんなにしっかり話す時間を取るのは難しいでしょう。それだけに、この20時間は、経営者としての愛情を伝えるには絶好の機会となっています。さらに言えば、イベントを企画してもらうことで新卒採用者の五月病対策にもなります。私ももう40歳を超えましたから、3776メートルに登るのは年々きつくはなっていますが、しばらくは続けようと思っています。 ■理念構築で気を付けるべきは? 今の介護人材不足は、私が離職率7割からの回復を目指した時に比べて、ずっと深刻化しています。しかし、人を採用し、定着させるためにやるべきことはあまり変わらないと思います。 まず、必ずやるべきことは法人や企業としての理念を構築することです。それも経営層だけで考えるのではなく、できるなら社員全員からヒアリングし、現場の意見を取り入れて理念を構築すべきです。そうすれば、理念はおのずと現場に浸透します。 中には、「昔からうちにはしっかりした理念がある」という経営者もいるかもしれません。しかし、その理念があるだけでは意味がない。復唱できるだけでもいけません。その理念が目指すものや背景などをきちんと説明できなければいけないのです。例えば、私の事業所の理念には「笑顔」ではなく、「笑い顔」という言葉を盛り込んでいます。間に「い」を入れたのは、微笑む顔ではなく、歯を見せて、声を立てて笑ってもらうことを目指しているからです。一つひとつの言葉の意味までしっかり吟味した理念をつくり、その意味まで浸透させなければならないのです。 もう一つ、経営者として気を付けるべきことがあります。それは、経営上の数字を職員全員にオープンにすることです。事業所内のお金の流れで不透明な部分があったりすると、それだけで職員の士気は一気に下がってしまうものです。 左 敬真(ひだり・ひろまさ)
一般社団法人日本介護協会理事長/株式会社いきいきらいふ代表取締役会長 芝浦工大大学院建設工学科卒。 学生時代に見学した特別養護老人ホームに衝撃を受け、介護の道へ。 2002年、24歳で大学院卒業と同時に起業。 居宅介護支援、訪問介護サービス、デイサービス、福祉用具サービスといった介護サービスに加え、全国初の入浴専門3時間デイサービス「いきいきらいふSPA」を展開。業界以外からも注目を浴びる。 現在は、一般社団法人日本介護協会理事長として「介護から日本を元気に!介護から日本をつくる!」を目的に、介護業界最大級のイベント「介護甲子園」を主催。介護を通じて日本を活性化させるための取り組みを積極的に行い、業界全体の改革に乗り出している。「自分の受けたい、家族に受けてもらいたい介護」を理念に、カッコいい介護業界を目指して活動中。
※左理事長が講演する介護経営セミナー「カギは人材確保!魅力的な職場をどう作るか」の情報はこちら
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