総合的に診療できる専門医を目指すなら新潟
一県一医大だから見つかる魅力的な働き方
少子・高齢化の進展に伴って疾病構造が大きく変化する中、若手医師が今後のキャリアを考える上で、特定領域の専門性を身に付けるか、総合的な診療能力を身に付けるかの選択は悩みどころだ。新潟県では、総合的な診療能力を身に付けつつ専門性を磨くことができると、同県の神田健史・地域医療支援センター長は話す。まさに、二兎を追い二兎を得るような経験を可能にする同県の医療提供体制について、神田氏と、新潟大学医歯学総合病院魚沼地域医療教育センターの高田俊範センター長に語ってもらった。
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■「一県一医大」がつくる医師同士の顔が見える関係
-なぜ、新潟では総合的な診療能力を身に付けつつ、専門性を磨くことができるのでしょうか。
神田氏 それを可能とする環境の背景には、県内で新潟大学のみが医学部を持ち、医師を養成している「一県一医大」の構造があります。
医学部を持つ大学が一つしかないということは、医師不足にもつながり、人口10万人対医師数は、47都道府県中42番目の195.1人(2012年12月末時点)です。しかし、そうだからこそ、大学と県、医療現場が密接に協力して、診療所と中小規模病院、基幹型病院が切れ目なく連携する医療提供体制を築き上げ、その中で、医師一人ひとりが求められる役割を発揮してきました。
高田氏 「一県一医大」のため、県内で働くほとんどの医師が、新潟大学を卒業したか新潟大学で研修した経験を持っており、お互いの顔が分かる関係です。このつながりを通じて、県内のどの医療機関を受診した患者さんの情報でも、専門的な治療が必要な場合には新潟大学病院まで届きます。
結果として、大学病院や、それ以外の基幹型臨床研修病院などの大病院には、さまざまな症例が集まります。他都道府県の大学病院では、「私は呼吸器内科の専門医だけど、肺がんが専門だから、喘息のことはあまり詳しく分からない」ということがあるかもしれませんが、新潟では全部やらないわけにはいきません。自然と、総合的な診療能力が身に付きます。
また、症例が集まれば、専門領域の研究につながり、論文を書くことができます。新潟大学では最先端の研究にも取り組んでいます。私自身、厚生労働科学研究費補助金を受けた研究班に所属して、新潟大学で医師主導治験を行い、希少疾患である「リンパ脈管筋腫症」の治療薬の世界初の薬事承認という成果を生み出しました。
ショッキングに聞こえるかもしれませんが、地域医療がしたいだけの若手医師には、新潟での研修をご遠慮願いたいと思っています。それは、新潟にいれば地域医療ができるのが当たり前で、地域医療と研究の両方ができる“一流”の医師を目指してほしいからです。
例えば、県外で大きな組織に属していて、能力があるのに埋もれてしまっているというような人には、ここに来て、診療や手術の面でも研究の面でも存分に力を発揮してほしいと思います。新潟には、さまざまな症例を担当して経験を積んだ医師がそろっています。診療でも研究でも、良きパートナーになるはずです。
■新設の魚沼基幹病院、大学病院以上の経験積める研修先に
-新潟大学を介した医師同士のネットワークが、地域医療も研究もできる環境をつくっているのですね。今年6月には、新潟大学と県が連携して魚沼基幹病院(新潟県南魚沼市)をオープンさせました。そこではどのような医療を提供しているのでしょうか。
神田氏 現在、県内の二次医療圏の多くでは、基幹型病院と、診療所や中小規模病院が連携し、患者さんが他圏域の医療機関を受診しなくて済む、地域完結型の医療提供体制を構築しています。
ただ、南魚沼市など3市2町で構成する魚沼医療圏には、重症の救急搬送患者さんの2割程度が圏域外に搬送されているといった課題がありました。
その解決のため、圏域内の2つの県立病院の病床数を、老朽化による建て替えのタイミングで縮小するなどして開設したのが、454床の魚沼基幹病院です。同病院の中には新潟大学医歯学総合病院の教育センターがあり、同センターの医師も診療を担っています。来年には研修医の受け入れもスタートさせる予定です。
高田氏 魚沼基幹病院では、新潟大学医歯学総合病院の第一線で活躍している医師がおり、その診療機能は大学病院と同等だと言えます。私は週4日外来を担当していますが、意外なことに、患者さんの病態は、新潟大学医歯学総合病院を受診する人とそう変わりません。魚沼基幹病院ができるまでどうしていたのか聞くと、新潟市や長岡市の病院まで通っていたそうですから、地域完結型医療提供体制の構築に貢献できているのではないかと思います。
救急患者を積極的に受け入れていますし、入院患者の総合診療医であるホスピタリストもいます。最先端の診療を行い、研究できる環境も整備していますから、研修医を受け入れたら、大学以上の経験を積んでもらえるのではないかと思っています。
■機能分化しているから、希望通りの働き方が提案できる
-魚沼基幹病院も、人気の研修先になりそうです。ただ、一つ気掛かりなのは、新潟大学の卒業生でなくても、医師同士のネットワークに入ることができるのでしょうか。
神田氏 実は私自身、大学は県外でした。卒業後に新潟大学で研修を受けたのですが、1年目に研修医全員が参加する催しがあり、そこで研修医同士が仲を深めて、大学は違っても仲間なのだという気持ちを持つようになったのを今でも覚えています。
現在は、そうした取り組みをさらに進め、新潟大学医歯学総合病院を含む全19の臨床研修病院でつくる「良医育成新潟県コンソーシアム」が、県内の全研修医が参加するフォーラムを開催しています。フォーラムは年3回ほどの頻度で開催され、その幹事は研修医自身に担ってもらっています。
もっと経験を積んだ医師は、県内で開業する前に数か月間、大学病院で研修し、そこで絆を深めることもあります。ただ、仕組みとして病院同士の連携体制がしっかりと構築されているので、医師自身がそうしたつながりを持たなくても、どの医療機関と連携すればよいかが明瞭で、不安なく診療できるようにはなっています。
私の役割は、新潟県内で働きたいという医師に対して、ご本人のご希望をかなえ、なおかつ新潟県全体の医療提供体制をよりよいものにする方法を考えて提案することです。
新潟では、診療所と中小規模病院、基幹型病院が機能分化して連携し、それぞれの役割を発揮しています。だからこそ、どんな希望を持つ医師にも、魅力的な働き先を紹介できます。やりたい医療がある医師は、ぜひ声を掛けてほしいです。
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