それでも医療は高齢者住宅と連携を目指せ!
より深刻化する介護人材の不足に、建築費の高騰。ここ1、2年で高齢者住宅事業をめぐる環境は、厳しさを増している。さらに2015年度介護報酬改定が、9年ぶりのマイナス改定となったことで、高齢者住宅事業への逆風は、より激しさを増した。「それでも医療機関は、少しでも早く高齢者住宅事業への参入を目指すべきです。むろん、その具体的な方法については、慎重に検討する必要はありますが」と指摘するのは、経営コンサルタントで、株式会社スターコンサルティンググループ代表取締役の糠谷和弘氏だ。糠谷氏に話を聞いた。【ただ正芳】
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確かに、高齢者住宅事業をめぐる経営環境は、厳しさを増しています。しかし、それでも医療機関は、この事業への参入を積極的に検討すべきです。何しろ、近い将来、「収入は診療報酬だけ」という経営スタイルは、極めて厳しい状況に置かれるのですから。 ■どんどん加速する「施設から地域へ」の流れ そう言うと「自院には、あまり関係がない」と考える人がいるかもしれません。しかし、ここで考えてほしいのは、ここ数年で、厚生労働省の資料に「施設から地域へ」「医療から介護へ」の2つの言葉が頻発するようになった点です。その狙いはいろいろありますが、大きな目的が「お金のかかる大規模施設(病院や特養などの入所施設)で支える体制から、地域(自宅や高齢者住宅等)の中で支える体制に移行しよう」であることは疑いようがないでしょう。 既に国は、「施設から地域へ」の大きな流れを加速させ、総コストをどんどん削るための取り組みに乗り出しているのです。この点については、実質は1.26%の削減となった14年度の診療報酬改定や、9年ぶりに「マイナス」となった15年度の介護報酬改定を見れば、分かりやすいでしょう。 ■財源確保より報酬削減が現実的な理由 もちろん国は、削るばかりでなく、財源を確保するための努力もしてはいます。消費税増税は、そんな取り組みの一つです。ただし、消費税率の10%への引き上げが、17年4月まで先延ばしにされたことでも分かる通り、新たな保険財源を確保する取り組みは、どうもうまくいっていないように見えます。 財源確保がうまくいかない最大の理由は、少子化にあります。少子化とは、社会保険制度を支える働き手が減ること。稼ぐ人が減り続けるのに、お財布(保険財源)を膨らませようとするのは、相当に無理な話です。それより、出費(報酬など)を減らす工夫の方が明らかに現実的です。 ですので、今後、診療報酬は、改定があるたびに厳しい削減圧を受け続けるでしょう。 ■“第四の看取りの場”として整備が進む高齢者住宅 加速する「施設から地域へ」の大きな流れと診療報酬への逆風。そんな中でも、積極的に進められているのが、自宅でもなく、施設でもない“第四の看取りの場”としての高齢者住宅の整備です。その点は近年のサービス付き高齢者向け住宅の急増を思えば、十分に理解してもらえるはずです=グラフ=。 医療機関は、この大きな流れに合わせて“変わること”が必要です。現業に固執することなく、医療保険に依存する体制から脱却し、介護事業や高齢者住宅も含めて経営戦略を見直さなくてはならない時が来ているということです。 ■厳しさを増した経営環境、しかし待っても好転はない ただ、冒頭にも述べた通り、現状の「有料老人ホーム(有老)」や「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」などの高齢者住宅(有老は“住宅”ではありませんが、便宜上、「高齢者住宅」と呼びます)の経営環境が厳しさを増していることも事実です。 特に高騰し続ける建設費と、深刻化する介護人材不足は、各医療機関にとって高齢者住宅への参入をためらわせる“壁”となっているようです。 ただ、ここでちょっと考えてみてほしいのです。例えば、建築費の高騰という問題ですが、来年、あるいは再来年になれば、落ち着く可能性はあるでしょうか。あるいは、介護人材不足は次の診療報酬・介護報酬同時改定までに解消されるでしょうか―。いずれの問題も、悪化する可能性の方が高いように思えます。 つまり、待っても状況は良くならないのです。さらに言えば、サ高住の建設への補助金制度も、いつまでも続く保証はありません。少し大げさな物言いをするなら、補助金が獲得できる今こそが、医療機関が高齢者住宅事業に乗り出す「最後のタイミング」と言えるかもしれません。 ■ニーズと地域性を十分考慮した戦略・戦術が不可欠 そのほかにも、乗り越えるべき課題はあります。例えば、15年度介護報酬改定で「同一建物減算」が強化された点などは、高齢者住宅の運営を考える上で、大きな課題と言えるでしょう=表=。しかし、何より大きな課題は、激化した競争の中での入居者の獲得です。実際、サ高住だけでなく「介護付き有料老人ホーム」ですら、オープンからしばらくたっても「ほとんど入居がない」という物件もあります。売却案件すら出てきているのです。 それでも高齢者住宅市場は、高齢化の進行に伴い、今後も拡大を続けます。また、他の業種にはない医療サービスという“キラーコンテンツ”を抱える医療法人であれば、確かな戦略と戦術さえあれば、十分に採算を取ることができるでしょう。そのために不可欠なことが、それぞれの地域のニーズと地域性を十分に把握し、それを踏まえた戦略と戦術を練り上げることです。 大きな可能性を秘めながらも、経営リスクも高まっている高齢者住宅市場では、ちょっとした立地や、わずかな値付けの違いが、恐ろしいほどの差となって現れます。たとえ医療法人であっても、「何となく」「とりあえず」乗り出すことは、もはや許されない市場となっているのです。 ※糠谷氏が、全国5会場で医療機関向けに高齢者住宅の開業ノウハウなどを解説するCBセミナー「高齢者向け住宅 勝つ開設を実現する戦略と戦術」の申し込みはこちらをクリック。 糠谷 和弘(ぬかや・かずひろ)
明治大学政経学部経済学科卒。大手旅行代理店、株式会社船井総合研究所を経て、介護事業を中心とする中小企業に特化したコンサルティングファームを設立。これまでに約400社と顧問契約を結び、新規事業参入、営業・集客指導から教育プログラムの構築、組織一体化の推進まで、幅広いテーマで指導、「日本一」と呼ばれる事例を多数生み出してきた。経営現場で得たヒントを基に、全国で累計500回を超える講演も行っている。著書に「ディズニー流!みんなを幸せにする最高のスタッフの育て方」「あの介護施設になぜ人が集まるのか」(共にPHP研究所)など。
医療介護経営CBnewsマネジメント
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